僕が小説を書くように
 夢を見ていた。
 幼い僕と、若かった母。

 僕は、自分の正当性を主張しようと、泣きながら地団駄を踏んでいる。
 母は、厳しい顔をしている。

 母の手が振り上げられる。

 階下からは、美味しそうな夕食の匂いがしている。

「ん……」
 食器がぶつかり合う音、流水の音で目が覚める。

 彼女が台所に立っていた。
 鍋でなにかをつくっているようだ。

 いい匂いが部屋じゅうに立ちこめている。
 これが夢とシンクロしたのだろう。

「目が覚めました?」
 彼女が微笑んで言う。

「具合はいかがですか?」
「うーん……眠る前より楽になったかな」

「よかった。ちょっとだけお夕飯をつくっていたんです」
 彼女は、楽しそうに言った。
「からだをあたためたほうがいいと思って。召し上がれますか?」

「……いただくよ」
 正直、あまり食欲はなかったが、食べたほうが回復は早まるだろう。
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