僕が小説を書くように
 彼女がしずしずと運んできたのは、野菜がたっぷり入ったスープだった。

「消化のいいものが、良いかと思って」

 一瞬、膝枕で「あーん」というのを期待してしまったが、そこまでのサーヴィスはなかった。
 仕方なく、うつ伏せのままスプーンでそれを食らう。

 匂いで推測できたとおり、美味だった。
 僕の好物のマカロニがたっぷりと入っている。

「美味しい」と言うと、彼女はにっこり笑った。
 花の咲いたような笑顔だった。

「先生、お料理なさるんですね。食材がすごくたくさんあって、びっくりしました」

「うん、外で食べるのと半々くらいかな」

「スパイスとか、見たことがないのもありました」

「あれはね、海外旅行したときに買ってくるの」

「そうなんですか」

「けっこうね、取材旅行に出ることが多いんだよ」

 ふと、沈黙が下りた。
 僕はにわかに緊張する。

「テレビ、つけましょうか?」

「うん、リモコンがそこに……」
 言いかけて、
「あっ、駄目!」

 彼女は、手をのばしかけて、きょとんとしている。

「し、静かなほうがいいから……」

 危なかった。
 チャンネルが、有料のエロ映画専門局に合わせてあるのを、忘れていた。



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