僕が小説を書くように
 目が覚めた。

 もうすっかり朝だ。
 カーテンの隙間から、陽光が射しこんでいる。

 意識が覚醒すると同時に、コーヒーのいい匂いが胃を刺激した。

「おはようございます」
 彼女が、きちんと服を着て、コーヒーを淹れてくれていた。

「おはよう」
 僕は、ひどくがっかりした。
 あんなことやこんなことは、露ほどもできなかったからだ。

 残ったのは、指の先のぬくもりだけ。

「腰の痛みは、どうですか?」
「あ、ああ……だいぶ良くなったね」

 少しずつ、からだをのばしてみたが、昨日より痛みが減っている。

 彼女は、簡単な朝食をつくってくれた。
 必死でからだを椅子に乗せ、コーヒーを一緒に飲む。 

「明日、朝いちばんで、病院に行ってくださいね」
「そうするよ。ありがとう」
「私、帰らなくてはいけないんで」

「そうなの?」
 別れがたい。
 くそっ、もう少しからだがいうことをきけば……。

「ええ、うちの子の面倒を見ないと」
「うちの子っ!?」
「私、文鳥を飼っているんです」
「なんだ、びっくりした」

 一瞬、最悪の光景が頭をよぎったのだった。

「失礼します」
 彼女は、研究室を出るようにして、僕の部屋を出ていった。



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