僕が小説を書くように
ブレーキは、とっくに壊れている
 週明けに大学で会った彼女は、「もう大丈夫なんですか?」としれっとした顔でたずねてきた。

 僕はあがってしまって、病院に行った報告を面白おかしく披露した。

「医者が俺を診察台で這いつくばらせて、『こりゃあおそらくぎっくり腰ですね』って言うの。
『腰の使い過ぎじゃありませんか』ってきいたら、『年齢ですね』って……。
 それから『あなた、どこかで見たことあるんだけどな』って首をひねるから、
『映画俳優です』って言いました」

 看護婦に、サインをねだられた話もした。
 これは本当なのだ。

 彼女が笑ってくれたから、まあいいか。

 まだ僕には、少しばかりの腰の痛みと、艶めかしい彼女の寝顔の記憶が残っている。

 なぜ、彼女の態度が変わらないのか。
 隣で眠ったくせに……。

 僕ばかりが中学生男子みたいに、おろおろしている。
 すごく不本意だ。

 夜も眠れないくらいあなたのことを考えています、なんて、歯の浮くようなせりふ、とても言えない。
 本当のことなのに。
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