僕が小説を書くように
 店を出た。
 彼女は、黙って僕のうしろについてきている。

 もう深夜と言ってもいい時間で、帰るには車くらいしか足がない。
 通行人もほぼいない。

「これからどうする?」
 僕は、歩きながら彼女に言った。

「僕のうちに来るか?」

 誰にも、邪魔されたくない。

「それとも、ホテルか」
 荒々しいような気持ちになって、立ち止まった。
 彼女の前に立ちふさがる。

「意地悪、言わないで」
 彼女の顔を見る。
 泣いていた。

 乱れた髪と、濡れた頬に触れる。

「こんなに」
 彼女は息を吸いこんだ。
「こんなに……、あなたのことが好きで、それでも……」
 
 頬に当てた僕の手を、彼女が握りしめる。

「わたしのこと、抱きたい?」
「抱きたい」

「こわいの」
 彼女は言って、僕の頬にくちづけた。
 唇が震えている。
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