僕が小説を書くように
 講義前に研究室に寄って、スーツを着替えた。
 朝帰りしても仕事に出られるように、換えの衣服は完備している。

 彼女のナイーブさを思うと、ため息が出た。
 男もナイーブなものだが、女性の中でも彼女は筋金入りだ。

 でも、僕のなかに、面倒だという気持ちは、一切起こらなかった。

 彼女に、快楽への手引きをしてやりたい。

 そういう気持ちがあったからだ。
 もちろん、彼女に惚れた弱みもある。

 彼女のからだは、僕の好みだった。
 くびれたウエストも、脚のかたちも、手のひらに収まるかたちのいい乳房も。

 彼女との距離は、彼女の男全般に対する距離なのだろう。
 それなら、僕がその扉をたたき壊してやりたかった。

 そんなことばかり考えていたので、学生から、「先生、テキスト同じところ二度読んでます」と指摘された。

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