僕が小説を書くように
 そのまま採点作業をやっていると、なんとか時間が経ってくれ、彼女が現れた。

 僕の顔を見て、もじもじしている。
 昨日の今日のことだから、恥ずかしいのは当たり前だ。

「恵」
 彼女に、下の名前で呼びかけた。
 ゆうべ、何度かそう呼んだと思う。

 面白いくらい、彼女の顔が赤くなった。

「先生、そう言えば、レポート用紙で手を切ってしまって」
 関係のないことを話しながら、細い指をこちらにのばす。

「見せてごらん」
 彼女の指に、赤い筋が見えた。
 ざっくりとは行っていない。

 僕は、指を口に含んだ。

「先生……!」
 傷というか、指を舐め上げるようにする。

「駄目です、先生!」
「どうして?」
「誰か来たら、どうするんですか!」

「あなたを見てると、意地悪をしたくなる」
 彼女に言うと、
「こんなことで、先生を失職させたくないんです!」
 非常に正論だったので、僕は彼女から離れた。
 
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