僕が小説を書くように
「もう、会いません、いえ、会えません」
 彼女はふっと、醒めたように言葉を固くした。

「わたし、小さいころから女と逃げた父がトラウマになっているって、言ったでしょう?
 先生にお子さんがいるのに、同じことはできません」

「それは……」

「あなたは全然、わたしのことをわかってくれなかった。
 これまでありがとうございました」

 さようなら、と呪文でも唱えるみたいにつぶやいて、電話は切れた。

 終わりだな、とただ、思った。
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