ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「ほら、その顔」

「え……わっ!?」

頬にキスが落とされ、ずいぶんと色気のない声が漏れてしまう。

なのに謙信くんは私の耳もとに口を寄せた。

「すっげぇそそる。……俺以外の男の前であんな顔、絶対するなよ」

あんな顔ってどんな顔? それよりなにより耳元で囁かれたら、心臓が壊れそうだ。

「はい」と言うように何度も頷くと、やっと解放された身体。

「そろそろ戻らないと……。すみれ、ひとりで帰れるか?」

「うん、大丈夫」

恥ずかしくて顔を下に向けたまま答えると、謙信くんは私の頭を撫でると顔を覗き込んできた。

そしていつになく不安げに眉尻を下げると、彼はそっと尋ねてきた。

「さっきのキス、嫌だった?」

さっきのキスが嫌だった? ううん、そんなわけない。

けれどはっきりと口に出して言うのは無理。小さく首を横に振ると、謙信くんは安心したように小さく息を漏らした。

「そっか。……じゃあこれからは毎日すみれにキスしてもいい?」

「…………えっ!? 毎日!?」

これには声を荒げると、謙信くんはにっこり笑った。
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