ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「だって俺たち、婚約者だろ？　前にも言ったけど、俺はすみれとキス以上のこともたくさんしたいから」

笑顔で言われるものの、私の顔は今、真っ赤に染まっているに違いない。

そんな私に謙信くんはダメ押しの一言を放った。

「それに結婚したら、やっぱ子供欲しいし。……すみれだって欲しいだろ？」

こ、子供って……！　謙信くん、本気で言っているの!?

固まる私の頬に再びキスを落とした彼。最後に耳元でこう囁いた。

「そんな未来のためにも、すみれ。……早く俺を好きになって」

「……っ!?」


咄嗟に耳元を手で押さえると、謙信くんはニヤリと笑ったあと、「帰る時連絡する」と言って颯爽と資料室から出て行った。

ドアが閉まると、静寂に包まれる資料室内で私の心臓は忙しなく動いている。

謙信くんと仲直りできたのは嬉しいし、キスだって嫌じゃなかった。で、でも子供って……!!

私、謙信くんのそばにいたい一心で婚約を承諾してしまったけれど……安易すぎたかもしれない。

謙信くんの言う通り、結婚するということはつまり、そういう男女の関係になるっていうことで、その先には子供も……。

そこまで想像したところで私の頭の中は要領オーバーに陥る。


好きな人といっしょに暮らす花嫁修業は、これからが本番だってことをこの時の私は、充分理解できずにいた。
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