ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「すみれちゃん……これからも謙信のこと、よろしくね」

「そんな……! 私の方こそです」

深々と頭を下げたおばさまに恐縮してしまう。

おばさまは謙信くんは私のことを好きだと思っているようだけれど、それは違うと思うから。


それなのに私でいいのかなって不安になる。――でも、今は誰も好きになれない。けれど私とは結婚したいと思ってくれた謙信くんの気持ちを信じたい。

共に時間を過ごす中で、いつしか私のことを好きになってくれると願いたい。

その先にふたりの子供を授かる未来を夢みてもいいかな?

だって私、おばさまの話を聞いて謙信くんと結婚したい気持ちが強くなってしまったから。

彼と家族になりたい。温かな家庭を築いていきたいと。

「こんな私ですが、よろしくお願いします」

おばさまに続き私も頭を下げた。

「こちらこそ。……あの子のこと、幸せにしてあげてください」

そして最後にかけられた言葉に、彼に対する想いが溢れ出す。

謙信くんのことが好き。好きだからそばにいたい。その一心でこの話を受け入れた。
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