ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
私は頑張るだけ。謙信くんに好きになってもらえるように。……彼に好きって感情を知ってもらえるように。

そんな想いで彼を見つめること数十秒。私の想いを理解してくれたのか、みるみるうちに謙信くんの頬や耳は、赤く染まっていった。

「……謙信、くん?」

意外な反応に目が点になる。すると彼は恥ずかしそうに腕で顔を覆った。

「見るな。……しかたないだろ? すみれが可愛い顔をして、嬉しいこと言うから」

「――え」

可愛い顔をして、嬉しいことを言うから……?

えっと……それはどういう意味? 耳まで赤くしてそんなこと言われちゃったら、変に期待しちゃう。

彼の真意を知りたくてジッと見つめていると、私の視線に気づいた謙信くんは私の肩を両手で掴んだ。

そして頬を赤く染めたまま力強い眼差しで私の瞳を捕らえる。

「謙信くん?」

ドキドキし過ぎて胸が苦しい。なのに瞬きもできず彼の瞳に映る自分を見つめてしまう。

どれくらいの時間、見つめ合っていただろうか。

時計の秒針の進む音だけが耳に届く中、リビングに彼の声が異様に響いた。
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