ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「今日は専務……じゃなくて、彼は帰り遅いの?」

周囲に社員がたくさんいることにハッとし、沙穂さんは言い換え聞いてきた。

「はい、今日は遅くなるみたいです」

だから今夜はガッツリメニューじゃなくて、軽めのメニューにしようかな。

そんなことを考えながら順番にエレベーターに乗り込み、一階に着くとエントランスを抜けていく。

「沙穂さんは今日、彼氏さんが来るんですか?」

「そうなの、から揚げが食べたいってリクエストされたから、鶏肉を買っていかないと」

そう話す沙穂さんの顔は緩んでいて、幸せいっぱいなんだって伝わってくる。

「この前部長に教えてもらった味付けしてみようと思って」

「いいと思います。私も試したら美味しかったのでおすすめですよ」

「本当? 楽しみー。早く作って食べたくなる」

ふたりで盛り上がりながら玄関を抜け、歩道に出るといつものようにたくさんの人で溢れている。

人の波に乗り最寄り駅に向かおうとした瞬間、いきなり腕を掴まれた。

「キャッ!?」

急に腕を掴まれバランスを崩す身体。どうにか転倒は免れたものの……いったい誰?
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