ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
掴まれた腕を辿っていくと、見えた意外な人物に目を見開いてしまう。

「え……嘘」

唖然とする私に相手はにっこり笑った。

「久しぶり、すみれ。……元気だった?」

私の腕を掴んでいるのは、たったひとりの従兄弟、桐ケ谷一弥(きりがや いちや)だった。

「一弥くん、だよね?」

本人を目の前にしてこんなこと聞くのはおかしいけれど、聞きたくもなる。

だって彼は私より二歳年下の二十一歳で、大学三年生。そして今年の初めからか留学中なのだから。

「やだな、すみれ。僕の顔忘れちゃったの? ……だから僕になにも言わずに、結婚決めちゃったわけ?」

「えっ……」

感情の読めない顔で淡々と話す彼に、耳を疑う。

どういう意味? 僕になにも言わずって。そもそもなぜ一弥くんがここに? 私は彼に嫌われているはずなのに。

腕を掴まれたまま彼を見つめていると、私がいないことに気づいた沙穂さんが慌てて戻ってきた。

「よかった、すみれちゃん見つかって。もう急にいなくなるから私、心配しちゃって……」
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