ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
お母さんの実家は明治時代から代々続く華道の家元。おじいちゃんは桐ケ谷流の家元として、メディアにも多く出演している。

私も幼い頃から華道に関する様々な作法や技術を、おじいちゃんから伝授されてきた。

花を生けるのは好き。けれど私はおじいちゃんと同じ道を進む未来を選択しなかった。私には才能がないと思うし、桐ケ谷流の後継者は叔父さんがいる。

それになにより、私は他人との交流をうまく取ることができないから。


「ところですみれ、やはり今年もじいちゃんといっしょに過ごすことになりそうかの」

朝食中に聞かれた話に、ギクリと身体が反応してしまう。そんな私を見ておじいちゃんは大きな溜息を漏らした。

「そうか……では今年もじいちゃんが、ごちそうとプレゼントを用意して盛大に祝ってやろう」

「……うん、ありがとう」


今日、七月一日は私の二十三回目の誕生日。両親が亡くなってからおじいちゃんが祝ってくれていた。それは毎年ずっと。

「それじゃいってきます」

「気をつけてな」

おじいちゃんに見送られ、家を後にした。
< 2 / 251 >

この作品をシェア

pagetop