ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「すみれ……俺……」

彼の手が伸びてきた瞬間、思わず払い除けてしまった。

「すみれ……」

悲し気に揺れる謙信くんの瞳。でも私、もう無理。こんな気持ちのまま謙信くんといっしょにいられない。

「謙信くん、婚約は解消してほしい。……謙信くんといっしょに暮らして花嫁修業なんてできない。……結婚なんて考えられないからっ」

理由を話してくれない。否定もしてくれない。きっとそれが真実なんだ。そんな謙信くんとこのまま結婚なんてできないよ。

「ごめっ……おじちゃんが心配だから戻るね。……謙信くんはもう帰って」

ごしごしと涙を拭い、踵を返した瞬間腕を掴まれた。

「待ってくれ、すみれ!」

「いやっ離してっ!!」

大きく振り払っても、彼は腕を離してくれない。

「離すわけねぇだろ!? 俺はまだ話が終わっていないから!」

いつになく声を荒げる謙信くんに、身体が強張る。

「すみれ、俺はっ……」

謙信くんがそう言いかけた時、彼に掴まれていない腕を勢いよく引かれた。

「きゃっ……」

謙信くんは咄嗟に手を離し、私は身体のバランスを崩し引き寄せられていく。
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