ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
『好きって気持ち』
あれから謙信くんとふたり、やって来たのは病院の屋上。

設置されていたベンチに並んで座ると、彼は手にしていたコンビニの袋の中から、缶コーヒーを渡してくれた。

「はい」

「……ありがとう」

受け取ると、謙信くんは私の様子を窺ってきた。

「昨夜は家に帰ったのか?」


「あ、うん。すぐに病院に戻ってくるつもりだったんだけど、つい寝ちゃって。……ありがとう、おじいちゃんに付き添ってくれて」

昨日は仕事に行ったんだよね? その証拠に彼はスーツ姿のまま。それからずっと付き添ってくれていたんだ。

「いや、俺が勝手にしたことだから。……よかったな、じいさんの目が覚めて」

「……うん」

たった一日会わなかっただけなのに、お互いぎこちない。

謙信くんに話したいことがたくさんあるのに、うまく話せなくてモヤモヤする。

お互い缶コーヒーを握りしめたまま、忙しなく目を泳がせてしまう中、謙信くんは小さく息を吐くとポツリと漏らした。

「ごめん、すみれ。……じいさんのこと、黙っていて」
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