ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「今でも鮮明に覚えているんだ。汚いアパートの部屋でひとり、空腹に耐えていた毎日を。施設で当たり前のように三食食べられることが、どんなに幸せなことだって感動したことを」

口を挟むことなく、謙信くんの話に耳を傾けた。


「そんな時、父さんたちと出会った。最初は戸惑ったよ。俺は親の愛情ってものを知らなかったから。優しく接してくれるふたりに、どう向き合えばいいのかわからなかった」

以前、おばさまから聞いた話が脳裏に浮かぶ。謙信くんはあまり笑わなかった子だったって言っていたよね。それは戸惑っていただけだったんだ。


「でもふたり自分の両親になるって聞かされて、嫌じゃなかった。……だけどいざいっしょに暮らしてみても、やっぱりどう接したらいいのかわからなくてさ。そんな時だった。すみれと出会ったのは」

そう言い私を見る謙信くんは、眉尻を下げた。


「最初はただ単に、自分と同じく両親がいないお前に興味を抱いただけだった。いや、俺は優越感に浸りたかったのかもしれない。俺と同じで本当の両親はいないのに、じいさんに引き取られたお前と、血は繋がっていないけど、父さんと母さんがふたりいる俺の方が幸せなんだって」
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