ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「最低だよな」と呟くと、謙信くんは視線を落とし、両手を固く握った。


「でもすぐにそんな自分に嫌気が差したよ。……すみれは俺に懐いてくれてさ、無邪気な笑顔で俺のあとをついてくるようになって。親がいるとかいないとか、そういった小さなものさしで幸せを測ろうとしていた自分にうんざりした」

胸が苦しいほど締めつけられた。謙信くんの気持ち、わかるから。

幼稚園、小学校と進むにつれて両親がいない私は、可哀想に見えるんだって嫌と言うほど感じてきた。

みんなと同じようにお父さんとお母さんがいなくても、私にはおじいちゃんがいる。

テレビに出ちゃうような、すごいおじいちゃんがいるんだからって、見栄を張っていた時期もあったから。


「すみれと仲良くなるにつれてさ、想像するようになったんだ。……俺に妹がいたら、こんな感じだったのかもしれないって。いつからかすみれのこと、妹のように思っていた。……可愛くてしかたなかったよ。お前のこと、なにがあっても、俺が守りたいって思った」

「謙信くん……」
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