ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
ポツリと漏れた声に彼はゆっくりと顔を上げ、今にも泣き出してしまいそうなほど苦しい顔を覗かせた。


「それは大人になっても変わらなかった。俺にとってすみれは、大切な存在だったんだ。……だからじいさんに病気のことを聞いた時、俺が守らないとって思った。お前に悲しい想いをさせたくない、俺がそばで支えて守ってやりたいと」

吐き出されていく彼の想いに、目頭が熱くなる。

「決してお前が可哀想だからとか、同情とか。そんな気持ちで結婚を決めたわけじゃない。それだけはわかってほしい」

「……っう、ん」

涙を必死にこらえるあまり、声が掠れてしまった。

もう思わないよ。謙信くんが私と結婚を決めたのは同情からだなんて。……でも、だからこそ私も伝えないと。


「あのね、謙信くん……」

「ん?」

彼は「ゆっくりでいいよ」と言うように、私の手をそっと握った。

「婚約は解消してほしいの。……結婚も白紙に戻してほしい」

「……うん」

彼は口を挟むことなく、優しい眼差しを私に向ける。そんな彼に伝えたい。私の想いすべてを。

ゆっくりと自分の気持ちをぶつけていった。
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