ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
珈琲を淹れて、切り分けたケーキを食べ終わる頃、珈琲を啜りながらおじいちゃんは、ふと謙信くんに尋ねた。

「そういえば謙信、引っ越し先はもう決まっているんじゃろうな」

「あぁ、週末から住めるように手配した」

え、引っ越し?

「謙信くん、引っ越すの?」


大学を卒業後、謙信くんは都内でひとり暮らしを始めた。私も引っ越しの際、手伝いで一度だけ訪れたことがあるけれど、ひとりで住むには充分すぎるほど広い部屋だったのを覚えている。

するとなぜか謙信くんは目を瞬かせた。

「引っ越すのって……なんだよ、すみれ。じいさんから聞いていないのか?」

「おじちゃんから?」

そのまま視線をおじいちゃんへ向けると、わざとらしく咳払いをした。

「すまん、すっかり忘れておった。……実はな、すみれ。この家もだいぶ古くなってきたところだし、ここらで修繕工事をしようと思っている」

「修繕工事?」
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