【短】春色の風
「3058円になります」
そう言った彼の、ちょっぴりゴツゴツした長い指が、店名の印刷されたビニール袋の口を開ける。
どこかぎこちなさを感じさせる手の動きは、それだけで私の目をくぎ付けにした。
CDを袋に入れ、袋の口にテープを貼った手の動きが止まる。
「あの…。お客様?」
彼の声で我に返った私は、
「あ。す、すみません」
慌てて肩にかけていた鞄の中をあさり、奥底に潜んでいたピンクの財布を取り出した。
彼のぎこちなさが伝染したみたいだ。
財布を出すだけの単純な作業が、なかなか上手くいかない。
「…お願いします」
やっとの思いで千円札を三枚と百円玉を一枚、トレーの上に置いた。
「いち…に…三千と百円お預かりします」
彼のお金を数える手つきもやっぱりどこかぎこちなくて、申し訳ないと思いつつ、心の中でクスリと笑う。