【短】春色の風
ここは私がよく利用するCDショップ。
春休み、毎日のようにバイトに励んだ私は、いつもより多く支払われる給料をあてにして、給料前にもかかわらず、気になっていたCDを買いに来た。
入ってすぐの場所に設けられた新作コーナーに並ぶCDを手に取り、レジへと向かった私は、
「いらっしゃいませ」
レジカウンターの店員さんに対して、なんともいいようのない気持ちになった。
鼻筋のスッと通った、イマドキの顔。
切れ長の目が瞬きするたびに、長さを主張するまつ毛。
時々、目にかかる前髪を指で払う彼の仕草に、何故か緊張してしまう私。
隣で伝票の整理をしている店長が指示を出すたび、
「はい。…はい」
真剣な表情をして頷く彼の横顔を、こっそり盗み見する。
心拍数は上がる一方。
彼がレジのキーを押すたびに聞こえる、ピッピッピッという音が、自分の心臓の音に聞こえてならない。