【短】春色の風

「42円のお返しです」

彼がお釣りを差し出す。

「あ…はい」

広げた手のひらに、丁寧にレシートとお釣りを置いてくれた彼。


私はそれを落としてしまわないように、ぎゅっと握りしめる。


一瞬だけ触れた指先の感触が、もう一度欲しい。


そんなことを考える私に、

「あっ。ポイントカードはお持ちですか?」

思い出したように聞いてきた彼。

「あっ。ありますっ」

つられて私も思い出す。


財布からポイントカードを取り出すと、彼は両手でそれを受け取った。


ドキン、ドキン。


心拍数は右肩上がり。



例えば私が、自分の容姿に自信を持っていたら

例えばこれが、ドラマのワンシーンだとしたら


迷わず彼に声をかけたのに。



一目惚れだなんてあり得ないと思ってた。

そんなの、バカげてるとも思ってた。


なのに、彼にときめいてる自分がいた。

< 4 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop