【短】春色の風
「42円のお返しです」
彼がお釣りを差し出す。
「あ…はい」
広げた手のひらに、丁寧にレシートとお釣りを置いてくれた彼。
私はそれを落としてしまわないように、ぎゅっと握りしめる。
一瞬だけ触れた指先の感触が、もう一度欲しい。
そんなことを考える私に、
「あっ。ポイントカードはお持ちですか?」
思い出したように聞いてきた彼。
「あっ。ありますっ」
つられて私も思い出す。
財布からポイントカードを取り出すと、彼は両手でそれを受け取った。
ドキン、ドキン。
心拍数は右肩上がり。
例えば私が、自分の容姿に自信を持っていたら
例えばこれが、ドラマのワンシーンだとしたら
迷わず彼に声をかけたのに。
一目惚れだなんてあり得ないと思ってた。
そんなの、バカげてるとも思ってた。
なのに、彼にときめいてる自分がいた。