【短】春色の風
「…あ」
私が自動ドアに近づいたせいでゆっくりとドアが開く。
「いらっしゃいませ」
そう言いながら振り向いた彼が、慌ててドアの前から離れた私を見て小さく微笑んだ。
そして、その笑顔のまま私に背を向けた。
身体中が熱くなる。
壊れてしまうんじゃないかと思うくらい、心臓の動きは速くなる。
恥ずかしさから泣きそうになりながらも、私はまた、ドアが開いてしまわないようにギリギリのところまで近づく。
そうまでして見たかったのは、ちょっぴり日に焼けて色褪せた一枚の貼り紙。
パート・アルバイト募集
募集人数の“3名”の部分にバツ印がつけられ、“2名”に書き換えられていた。
いつから貼ってあったのだろう。
気にもとめなかった。
バイト、かけもちしようかな…
バカみたいだけど、私の頭の中にはもう、彼と同じ制服を来てレジに立つ自分の姿があった。