【短】春色の風
小さく深呼吸をした私は一歩前に出る。
ゆっくりと開く自動ドア。
「いらっしゃいませ」
そう言って振り向いた彼が、今度は不思議そうな顔をしている。
一歩、また一歩、彼に近づく。
レジの前に立ち、私はもう一度小さく深呼吸をした。
「バイト募集の貼り紙を見て…」
一目惚れなんてあり得ないと思ってた。
そんなの、バカげてるとも思ってた。
なのに私は、ときめいていた。
彼に、ときめいてしまった。
そうだ。
この不思議な気持ちはきっと、
春色に染まった季節のせい。
そういうことにしておこう。
【END】