【短】見えない虹
台風の余韻の中で
台風のすぐ次の日だった
僕は一本の電話に呼び出された
慌てて駆けつけた僕に君は言った
風に舞った長い髪に隠されて聞き取れなかった
「どうしたの?」
濡れた瞳が僕からゆっくり視線を下ろす
「怖いの。」
いつも気丈な君が今日はどこか弱々しい
何が怖いと問いかけても君は何も言わない
ただただ考える様に声を押し殺す
シンガーの君の息遣いは一定のリズムで鼓動と同じ早さで進んでいく
「何のために歌うのか、分からない。」
そう洩らす君の声は少し掠れていた
「声、どうしたの?」
大事にしなきゃと言いかけてやめた
君の頬を伝う透明な雫が僕の胸を苦しめる
触れられる距離にいるのに僕は君に触れられない
僕の一方的な片思い
君は僕が友人でいる事を望むから