涙の、もっと奥のほう。
そんなお父さんとの間に私が出来たのは、お母さんが20歳の春だったそうだ。

飛び上がる程喜んだお母さんと反対に、お父さんは喜ばなかったと言う。

『お前と子供養ってく力なんか俺にはねえよ』

お父さんはこう吐き捨てた。

必死の説得の末に決まった結婚。

出鼻をくじかれたと周りが騒いでも、お母さんだけは幸せだった。

どんな男でも、子供の父親。

その真実だけで十分だと思ったという。

「どんどんお腹が大きくなるでしょ?それ見てたお父さんの不思議そうな顔ったら無かったよ。そうそう、あんたの顔がエコー写真で初めて写ったときね、あの恵比須顔!」

お父さんのお父さんらしい姿を初めて見た瞬間だったそうだ。
< 36 / 54 >

この作品をシェア

pagetop