涙の、もっと奥のほう。
次の日、お母さんは私を抱いて家を出た。

お父さんへの未練を残し、自分で切り開く未来を脳裏に描きながら。

私には理解できなかった。

そんな男の何に未練を残していたのか?

まして、今だ心にあるというのだから、もっと分からない。

亡くなった時にこの美貌を持ち合わせていたのなら、離婚してから付き合っていた人と再婚して幸せになることだってできたのに。

お母さんはお父さんとの毎日を引きずりながら生きていたのか…どうして、そうしなかったのだろう。

「でも龍奈、分かっててほしい。」

涙を流しながらお母さんは私の方に向き直った。

「お父さんとの数年は絶対無駄じゃなかったんだよ?」
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