Dear you
魚心あれば水心
それから、約2週間半。
今日から 七ノ峰は学園祭。
今日、明日は文化祭。
明後日、明々後日は体育祭。
だから、今日は土曜日だけど午後も学校に拘束されるし 明日は日曜日だけど 学校がある。
まぁ、ちゃんと振替休校日があるから 別にいいんだけどさ。
毎日 学園祭準備の色々な話を奈緒にしていたからか 奈緒は明日が七ノ峰の学園祭であることを知っていた。
"明日と明後日、どっちに来て欲しい⁇" って昨日 LINEで聞かれて 迷わず "明日!!!" って答えた。
文化祭2日目、高2はクラス演劇をするから。
そこで俺は何故か 脚本を書いた子に副主演を頼まれた。
頼まれるのは嬉しいし、嫌な気しないし。
だから、引き受けたんだけど 結構 スパルタだった。
連日 最終下校時刻まで演劇の練習とかで。
おかげで 奈緒に家に誘われたりしても 全部 断っていた。
今日も、16:00に文化祭が終わるから そのあと 練習らしい。
精一杯 練習してきたから、それなりに自信はある。
だけど、やっぱり ちょっと恥ずかしいものがあるから 奈緒には見られたくないな……って。
11:00に奈緒は来るらしい。
9:00に文化祭は始まるから 2時間 暇だな。
今日は特に誰とも一緒に回る約束してなかったけど……まぁ、ずっくん(細静貴)と時間までは回るかな。
そう思いながら、教室に入ると 隣のクラスの友達(門脇あけと)が俺の方にすり寄ってきた。
「ちょっ、朝からなんだよ。」
そう言って笑うと、 "頼みたいことがあるんだよ" って。
外部から彼女が来るから それまでの間 付き合って欲しい、って。
「俺も外部の人と待ち合わせしてんだよ。
その人、何時に来んの⁇」
「12:30」
「俺のは、11:00に来るから。
それまでなら。」
"えー!!!" と あけとは声を上げる。
「邪魔しないからさ、一緒に回ろう⁇」
「……相手に聞いてくれ。
俺は勝手に判断は下せない。」
もし奈緒が嫌がった時に 何を言われるか。
奈緒、結構 言葉キツイから 怖いよ⁇
「やったー!!!」
って喜んでる あけと。
「え、待って、俺の話 聞いてくれてた⁇」
頷くあけと。
「だって、澪緒とさえ仲良くできる人なら 俺くらい寛大な心で許してくれるでしょ。」
……失礼が過ぎるだろ。
親しき仲にも礼儀あり、って言葉を教えてやりたい。
「そろそろ朝礼始まる時間だぞ⁇」
「うおっ、やべっ、本当だ!!!
んじゃあ、またな!!!」
あけとは走って、隣の教室に入って行こうとして 教室出てすぐのところで自分の担任とぶつかってた。
……馬鹿すぎだろ、本当 面白いな、あいつ。
文化祭が始まって まず本館1階 事務所前で売ってる金券を買いに行った。
とりあえず、500円分でいいよな。
3年生がクラス模擬店を出してるから、そこで使う金券。
1番高値で1個150円とかだし、500円あれば 半日はもつ。
それに七ノ峰生はお昼に 七ノ峰母の会(有志の母親たちの会)から お昼ご飯もらえるし。
確か、毎年 サンドイッチかうどんか蕎麦から好きなの一つ選べる。
そういうのもあるから 別にお腹が空いたら全部 模擬店で食料調達しなくてもいい。
「とりあえず、先輩に買いに来て、って言われたから そこだけ行ってもいい⁇」
「いいよ、何出してんの⁇」
「はしまき。」
「普通に食べたい。」
「うん、俺も。」
そう言って あけとの先輩のいる店に行ったけど 何故か開始早々ボヤ騒ぎで消防士が3人居た。
おかげでまだ何も作れてないのに 人は並ぶから 長蛇の列になってたし、先輩に顔を見せて "また買います" って言ってから その場を離れた。
「どうするー⁇」
「高1の合唱コンクール⁇」
「あぁー、そうだ、それ行こう。
講堂だったら、冷房もついてて涼しいし。」
「そうそう 俺、なんでもないや 聴きたいんだけど。」
「澪緒、本当 RAD好きだな。」
「いや、本当ね。
オススメしたの、聞いた⁇」
「いや、聞いてない。
一気に20曲くらい送ってこられても!!!
もうちょっと、厳選してよ!!!」
「分かった、とりあえず 三曲に絞るな。
だから、聞けよ⁇」
そう言いながら、講堂のある三階まで階段を登る。
……やっぱ、階段長くね⁇
軽く息が切れるんだけど。
早速 一クラス目が始まってるらしくて中には入れない。
なら 3階よりも4階の方が空いてるからいいんじゃないか、ってなって 4階まで登った。
3クラス目が聴きたいクラスだから、まぁ丁度いいか。
今年から 合唱コンクールは自由曲だけになったらしい。
俺等の学年は 課題曲と自由曲の二曲を歌ったけど。
俺はあーいうの結構好きだったりするから ギリギリ二曲歌える世代で良かったと思う。
「次 にじいろ だって。」
「なんか、良い曲でしょ。
毎年 何処かのクラスが歌うよな。
にじいろ と 青いベンチ。」
「あー、分かる。
あとは secret base。」
「そうそう。
あ、音 漏れてる。
……早速 このクラス 青いベンチ歌ってる。」
「俺好きだよ、この曲。」
「俺も。
ってか、俺がこの曲聞いて って初めに言ったんじゃん。」
「そうだったっけ。
まぁ、いいじゃん、どっちでも。」
そうこう言ってるうちに 講堂の扉が開いた。
生徒会が主になって 運営されてるから 生徒会の人は2日合わせて 30分しか自由時間がない、って言ってた。
本当、お疲れ様です。
うちのクラスの生徒会役員、もしかしたら明日の劇の途中に何かのシフトが入るから 仕事 出来ないかもしれない、とか言ってたな。
生徒会は部活として扱われてるから、部活よりもクラスの方を優先するべきだと思うし そのタイムシフトを組んだ生徒会長は多分 そういうところまで頭が回らないんだろう。
……自校進クラスの人だし。
学校内でコースに対しての偏見みたいなのが根付いていて。
1組がアスリートクラス。
野球をやっていればいいだけのクラス。
2組から7組が自校進クラス。
付属大学に行けるクラス。
8組9組が特進クラス。
内部進学は不可能で必ず外部に行かないといけない。
10組11組が中高一貫クラス。
概要は8組9組と同じ。
俺は10組で 一貫、っていうだけで他のコースの人たちから馬鹿にされている。
自校進コースの人たちはクラスの隠キャの人のことを "一貫" っていうあだ名で呼んでいるらしい。
更には、大部分の学校の先生からも 一貫生は嫌われている。
特進と一貫のクラスの人が同じようなイタズラをしたとして、一貫のことだけが大袈裟に他のクラスにも先生の口から言いふらされる。
"これだから一貫は"
そんな先生たちの口癖。
何か悪いことをしたわけでもないのに、一貫 っていうだけで嫌われるし 悪口を言われる。
……心が痛いよね、高校に上がってから もう1年半が経つとしても。
こんなこと、慣れないし。
中学の時は、高校生から "七ノ峰の評判が悪いのは 全部 中学部のせいだ" なんて言われて。
高校になれば、 "だって、一貫生だから" "これだから、一貫生は" と言われ。
こんなことを言うのはワガママなのかもしれないけれど、どうせなら 中学から七ノ峰に通ってるんだから 知らない先生からも 特別に好かれたい。
無条件に 中学から頑張って 地元の中学じゃなくて 遠く離れた七ノ峰に来ている分 優しく接してもらいたい。
……そんなことを言っても、 "また、一貫生が変なことを言っている" で終わらされるんだろうけど。
こう思うことを被害妄想だ、とか 自意識過剰だ、とか思われるなら それでいい。
でも、実際のことだから。
昨日だって、教室展示の作業があるから、と 中庭で演劇の練習をしていると 自校進コースの人たちが通りざまに "うわっ、一貫生が何かしてる" "今更練習しても 無駄でしょ" とか 心に触るようなことを言い捨てていった。
講堂練習の時、交代の時間だから急いで講堂から撤収するように言われて 皆 急ぎ足で講堂から出て行くと "流石 一貫生、慌ただしい" "一貫生、ブスばっかり" "絶対に自分たちの劇の方が面白い" などなど言われて 傷ついた。
次のクラスのことを思って、急いでいたのに 恩を仇で返された気分だった。
とても、悲しかった。
更にはそんなことを言っている人の側で そのことを聞いて笑っている人たちが 知り合いだったから、余計に傷ついた。
一対一とかの時だと普通に話すのに、やっぱり心の何処かでみくだされているんだな、と。
そう思うと、本当に寂しい。
だから、言われた分 自分たちのクラス演劇で見返すんだ、って。
そうクラスの皆で決意したから。
……まぁ、今はそんなこと 関係ないけど。
出入り口の近い 後ろの方の席に座る。
……この席まで聞こえてこないのであれば、そのクラスの合唱はそのレベルの仕上がりだ、ということで。
7組だから、自校進コースのクラスか。
そういえば、去年 俺たちが一年の時、自校進コースの人たちが "一貫には絶対に負けない" と言ってたっけ。
これ、あくまでも合唱コンクールだから 優劣をつけられる。
一位、二位、三位までは表彰される。
それ以下のクラスについては順位すらも発表されない。
結果は一位 10組・11組の同点で三位が9組。
自校進コースはあれだけクラスがあるのに 一クラスも表彰されていなかった。
こういう勝負事の度に嫌な思いをするし、性格の悪いことを考えちゃうから 嫌なんだよな。
でも、それがこの学校には染み付いちゃっているから。
仕方ない、と認めるしかない⁇
そうこう言っているうちに 合唱が始まる、けど ソプラノ、アルト、それぞれ一つのパートしか歌ってないところ 全然声が聞こえない。
「声 ちっちゃ。」
って あけともボヤいてる。
さっきクラス紹介で "授業中にも大声で騒いでしまい、よく怒られています" って言ったの、誰だよ⁇
曲が終わって、クラスの発表が終わる。
周り 拍手してるみたいだけど、する気も起きない。
「なんか、腹立つよな。」
「分かる。
でも、次 一貫だから 大丈夫。
知ってる後輩、いるかな⁇」
「あっ、居た。
4人くらいバスケの後輩がいる。」
今では部活 入ってないけど、中学の時はバスケ部だった。
「良かったじゃん、俺も顔見知り 何人かいる。」
今年の1年は2クラスで組むには人クラスあたりの人数が多すぎて、一貫は3クラス。
だけど、ギリギリで3クラス組んでるから 一クラス 26〜28人くらいだ、って聞いた。
見て分かる、ソプラノ女子 4人、アルト女子 5人。
こんな人数で他の自校進コースのクラス(一クラスあたり40数人)に勝てるわけないだろ。
コンクールの審査員、って言っても 音楽の先生じゃないから ほとんど声の大きさで優劣をつけられるのに。
不公平だろ。
不満が溜まって 仕方がない。
でも、曲が始まって "このクラス 絶対に期待を裏切らない" そう思った。
指揮の合図で歌い始める。
アカペラで。
アカペラで歌いだすの、って本当 難しいはず。
しかも、合唱だし。
なのに、凄く揃っていて綺麗。
人数とかやっぱり関係ない、声もちゃんと聞こえてくる。
そしてピアノの伴奏が始まる。
ピアノの知識とかないから分からないけど、すっごく綺麗。
ソプラノ単独のパート、ピアノの音もあるけれど ちゃんとかき消されていない。
……すごい。
安心して 聞いていられた。
気づくと曲が終わっていた、そんな感じさえした。
「このクラスが優勝しそう。」
なんて言いながら 講堂を後にした。
上手いのを聞いて直ぐに出ないと 次のクラスで気分を落とされるから。
それに、知らない曲だし あえて聞こうとも思わないし。
「どうする⁇」
「はしまき、チャレンジしたい‼︎」
あけとがそう言うから、地上へ。
「今 さっきよりも空いてる!」
早速 並んで はしまきをゲット。
あけとが商品もらってる間に 食べ終わってしまった。
「……澪緒、食べるの早すぎ。」
「ちゃんと あけとが食べ終わるの待つから、安心しろよ。」
あけとを待つ間 他の模擬店、どこを回るか考えてた。
「次、唐揚げ食いたい。」
「結構食べるんだね、今日。」
「お腹すいたし、食べたい時に食べるべきじゃね⁇」
「それは同意見。」
唐揚げ行って、ポップコーン行って、たこせん行って。
「かなりお腹いっぱい。」
「あんだけ食べてたら、そうなるわ。」
「ってか、時間見てなかった。
……もうあと3分か。
最後に金券買っとこ、明日も使えるし 500円 2つでいいか。」
ささっ、と金券を買った。
朝、買った時は5分くらい並んだ。
金券買わないと七ノ峰の文化祭は始まらないし、そりゃあそうだよね。
「かなり食べる気だね!?!?
まだ、入んの⁇」
「だから、明日も使うつもり、って。」
そう言って校門まで行くと 奈緒が入門手続きみたいなのをしていた。
それが終わって 直ぐ、奈緒は俺の方に来た。
「思ってたよりも 人が多い。」
「だって、ここ七ノ峰だし。
まず生徒数が多いじゃん⁇」
あけとに肘で二の腕を突かれた。
「何⁇」
「澪緒、彼女 また変わってんじゃねーか。」
「お前が前に俺の彼女見たの、いつだよ⁇」
「……忘れた。」
「3〜4ヶ月振りの彼女だから。
最近は彼女作ってなかったし。」
「ってか、彼女かよぉ〜。
俺 お邪魔虫じゃんか〜〜。」
「だから、いつ一緒に居ていい、って言った⁇」
奈緒に服の袖を引っ張られた。
「この人は⁇」
「知り合い。付きまとうの、俺を。」
「ちょいっ、待て⁇澪緒⁇」
「冗談冗談、友達の あけと。」
「初めまして、時守奈緒って言います。
いつも、澪緒がお世話になってます。」
奈緒はニコッって微笑んだ。
俺にだって、そんな風に優しそうな顔してくれたことないのに……。
「美人……、ですね。」
あけとが肩に体重かけるから 体が傾く。
「お前、面食いも程々にしろよ⁉︎」
と耳元で言う。
「いや、俺 奈緒だからいいんだよ。
絶世の美女が100人居たとしても 俺は奈緒を選ぶよ。」
"分かってないなー" って付け加える。
「まぁ、澪緒の元カノにブサイク何人か居るもんね……」
「そんなこと言わない。
更には奈緒の前で言わない。
奈緒、行きたいところとかある⁇」
奈緒は文化祭のパンフレットを見てる。
「クラス展示、って何してるの⁇」
「なんか、 "SNS映え" って言って やってた。」
「澪緒が企画したんだぜ⁇」
"なー、澪緒⁇" って あけとは俺の首に腕を回した。
「なんか、小学校のポスター展示みたいだったからさ、嫌だったから。」
クラス演劇について模造紙に書いたのを3枚 壁に貼り付けるクラス展示なんて嫌じゃん⁇
他のクラスはもっと色々 趣向を凝らしてやってるのに。
「へー、それ 聞いてない。」
「敢えて言わなくてもいいかなー、って……ね⁇」
奈緒の目がなんか冷たい。
「って言っても、本当 俺は何もしてないから。
教室の見せ方を提示して、勝手に作り変えただけだから。」
「でも、うちのクラスの女子 "何でこのクラスには神無月みたいな男子がいないの" ってキレてた。」
「それは、過大評価が過ぎる。
勝手に俺1人が楽しんでやってたら、周りも付いて来てくれただけ。
そっちのクラス、特に人望もない女子が1人でワーワーキレまくりながら 主軸としてやってたから 誰も付いて来てなかったよね。」
「そうそう、劇も意味分かんねーよ。
最下位目指してるから、本当。
楽しんでるの、アイツだけ。
演技もなんか、ヒステリックだし。」
「らしいね。
明日 楽しみにしてる。」
「本当な。」
「俺のクラスはかなりいい線行ってるから、入賞はすると思うんだよな。」
「俺も思う、10組はすごいよ。」
「ありがとう。」
そう言ってるうちに教室。
二階だからね、割とすぐに着いた。
「涼しいー。」
日焼け防止でインナー着た上にクラスTシャツ着てるから、結構 暑いんだよ。
「……凄いね、思ってたよりも……」
「写真、撮って欲しかったら 言って⁇」
奈緒は自由にクラスを見回り始めた。
「ねぇ、澪緒。」
教室で駄弁っていた女子に手招きされた。
「あの人、誰⁇」
「彼女。」
「誰とも付き合わないんじゃなかったの⁇」
「俺、そんなこと 一言も言ってないし。」
「嘘つき。」
「言ってればいいじゃん、ってか 溜まるなら自分のクラスに溜まりなよ。」
この子たちは確か 特進の子。
何かと近寄ってくる子たち。
正直、こういう派手なタイプ苦手だから 嫌なんだけどね。
俺が言えないけど、校則破ってる人 無理なんだよね。
せめての校則くらい守れよ、って。
メイク禁止なのに、ケバいくらいにメイクしてるし。
校内携帯電話使用禁止なのに、今だって 携帯触ってるし。
「澪緒。」
奈緒に呼ばれたから、さっきの子たちを軽くあしらって 奈緒の元へ行く。
「写真撮りたい。」
「じゃあ、携帯貸して⁇」
「そうじゃなくて、2人で。」
「んじゃ、あけと呼ぶか。」
女子と楽しくお話中のあけとを連れてきて、写真を撮るように言った。
「俺、最近手の震えがすごいんだよね⁇」
「その携帯落としたら、殺す。」
あからさまに手を震えさせてみせる あけと。
「ごめんなさい、じゃあ撮るよ⁇」
その後も何枚も何枚も写真を撮ってもらった。
申し訳なく思うくらいに。
"お腹がすいてきた" って奈緒が言うから 下に行く。
奈緒が買う分は 全部俺が支払った。
まぁ、そんなに高額でもないし。
一通り回り終わった。
「何かしたいことある⁇」
「2人きりになりたい。」
難しこと言うね……。
この学校、よくある少女漫画みたいに 空き教室の鍵が開いてたり、屋上が解放されたりしてないから、本当……。
強いて言うなら、地下はまだ人が少ない穴場だけど 今日はGCC(コンピューターゲームを作ったり、デジタル絵を描いたりするクラブ)の展示をやってるから 2人きりにはなれないよな……。
「じゃあ、ちょっと探してみるから 奈緒はここで待ってて。」
って言って、一つ 思いついたところを見てみると、先生もノーマーク、誰も来てないから 奈緒を連れてそこに行った。
北校舎、屋上に続く階段。
最後の踊り場⁇
なんか、屋上に入る扉があるところ。
やっぱり、扉は開かないけど、生徒立ち入り禁止になってるけど、周りに見張りの先生も居ないし いいかな、って。
悪いことをしていることに違いはないから、あまり長居はしたくないけど。
「私、彼氏の学校の学園祭に行く、とか 学園祭デートとか憧れてて。」
と隣に座る奈緒は恥ずかしそうに笑う。
「そうなんだ、なら 夢が一つ叶ったね。」
"うん" と微笑む奈緒。
太陽の優しい光が奈緒の顔を照らす。
「聴きたくないかもしれないけれど、私の話、聴いて⁇」
ふふっ、と笑った。
「何の話⁇
俺、人の話聞くの 好きだよ⁇
奈緒の話だったら、尚更 聴きたい。」
"だから、安心して" と言うと 強張っていた顔が少し優しくなった。
「元カレの話……なんだけど。」
そう来たか、っていうのが素直な感想。
「うん、いいよ。」
正直、聴きたくない気持ちもあるけど。
でも、奈緒の恋愛観とか知るいい機会だと思うし。
「私、元カレと付き合ってたの 2年行かなかったんだけどね、私の中では1番長く付き合った人なの。」