Dear you
禍福は糾える縄の如し
果報は寝て待て
学園祭があった週の週末、今日は 四條でデートするらしい。
昨日、LINEで
"明日、暇なら 河端町行こう。10:00に月京極駅に集合ね"
って来てたから。
OKってスタンプを送り返した。
付き合ってばかりだけど、早速 七ノ峰は学園祭とかで休日に出かけたりすることはなかった。
眼が覚めて、時間を見ると9:57を指していた。
「うおっ、ヤベェ 寝坊した。」
直ぐさま 奈緒にLINEした。
奈緒からのLINEには20件近く通知が溜まっていた。
"ごめん、今起きた"
"待ち合わせ時間 30分遅らせてもらってもいい⁇"
"無理"
"もう待ち合わせ場所にいるし"
って返信が来た。
……マジか、まぁ あと3分で待ち合わせ時間だもんな。
"なら、1回 家来て⁇
急いで用意するから、なんか 申し訳ないし"
とりあえず、外で待たせたままにしておくのは申し訳ない。
"めんどくさい、早く来て"
そう言われて、猛スピードで出かける用意をする。
10分後、身支度が終わり 家を出た。
……髪の寝癖 治りきらなかった。
最悪だ……。
「ごめん、お待たせしました。」
「遅い、何分遅刻した⁇」
「15分⁇」
「16分!!!」
……1分の誤差くらい許してくれ。
「まぁ、いいよ。
じゃあ、行くよ。」
改札に入ろうとした奈緒。
「あ、待って、切符買ってない。」
一瞬で切符買って、奈緒に着いてった。
「今日は何すんの⁇」
「特に何も。」
「お店見たりとか⁇」
「まぁ、そんな感じ⁇」
「あ、メイト行きたい。」
「メイト⁇」
「アニメイト、漫画見たい。」
「駄目。」
「ええー、まぁ、いいや。分かった。」
メイト、痴漢されたりとか多いから まぁ 奈緒を連れて行くのは間違ってるか。
わざわざ、そういう危ないところに連れて行くなんて、ねぇ⁇
まぁ、河端町のアニメイトでそういうことはあんまり聞かないけど。
「えー、でも、やっぱちょっとだけ見たかったなー。」
「黙れ、オタク。」
「オタクって言われるの嫌いなんだよねー、腹立つ。」
「五月蝿い、オタク。」
もう、大分 機嫌悪くなったから 帰っていい⁇
「なら、俺は何のオタクなの⁇」
「アニメとかじゃないの⁇」
「うっわ、それは無いわーーー。
本とか漫画とかが好きなんだけどなー、まぁ よく誤解されるからいいや。
諦め。」
「本とか好きなの⁇」
「うん、読むのも速い。」
「どういうの読むの⁇」
「最近は太宰治にハマってる。
って言っても、2冊しか読んで無いんだけどさー。
何かオススメある⁇」
「いや、キモい。」
「……え⁇」
「本気で本読むの好きなの⁇」
「うん、キモい⁇」
幼い頃から兎に角 本が好きで、好きなシリーズの本は読み漁ってきてるから 本オタクとか 漫画オタク、って言われたら 反論出来ないんだけどね。
あ、でも、オタクって 中国語で書くと "宅男" って書くらしくて だから一日中引きこもってないし やっぱり俺はオタクでは無いや。
「ううん、ごめん。
他人の趣味を悪く言っちゃうのは良く無いよね。」
「うん、そう。」
「怒った⁇」
「少し。」
「ごめん。」
「いいよ、謝られた程度で済まないし。」
「そんなに怒った⁇」
「さぁ⁇
あ、電車来た。乗ろう⁇」
何か言いたげな奈緒を放って 先に電車に乗る。
後から来た奈緒。
俺は先に座ってて隣も空いてたんだけど 丁度 奈緒の前を歩いてた人が座っちゃったから もう席がない。
「座りな⁇」
そう言って、奈緒に席を譲ろうと腰を浮かせると 肩を抑えて 座らせられた。
「座ってて。」
「えー、いいの⁇」
「うん、いい。
目の前に立たれたら 話すにもすっごい見上げないとダメじゃん。」
確かに。
身長差的にそうか。
「……もう機嫌、なおった⁇」
「……ん⁇」
「さっきはごめん。」
「何が⁇」
「嫌がるようなこと言った。」
「俺が遅刻したことに気が立ってたんでしょ⁇
仕方ないよ、それは。
俺が寝坊したのが悪いんだしさ、奈緒が悪いんじゃない。
寧ろ 悪いのは俺、違う⁇」
「そう、だけど……さっき "許さない" みたいなこと言ったから……」
「えー、言ったー⁇
覚えてないなー、言ったかなー⁇
言ったとしても 覚えてないくらいの些細なこと、だから 気にしないで⁇」
言ったかなー、本気で。
でも、言ったんだろうな、覚えてないけど。
腹立ったら 思ってないことでもポンポン口から矢継ぎ早に出ちゃうのは悪い癖だなー。
……これが Lo;vainの2人と別れた理由だしね
奈緒にまで 愛想尽かされないようにしないとなー。
別に 愛想尽かされて、別れることになったとしても何の未練も無いだろうけど。
今は "久しぶりにできた彼女" ってことで、 "奈緒が美人" ってことも相まって "奈緒が好きだ" と思ってるけど、きっとこれは俺の本心じゃ無いし、尤も 俺は "自分には恋愛感情が欠落している" そう思っている。
"何でこの人と付き合ってんの" って聞かれたら "目の前で女子が泣いてて 宥め方が思いつかなかったから" としか答えられない。
"何で奈緒が泣いているのを見たくないのか" って聞かれたら "形だけでも 《彼女》が泣いているところを見たくないから" って答えるだろうし。
この人の何処がいいんだろうなー、と奈緒の顔をしげしげと見てしまって 怪訝な顔をされた。
仕方ないですね、はい。
学園祭の時に あけと に言い返した "いや、俺 奈緒だからいいんだよ" って言った俺の真意も分からない。
本気で俺はそう思ってんのかな⁇
本当に俺と奈緒の間に恋愛は存在してんのかな⁇
「一発殴っていい⁇」
「なんで殴られないかんと⁇」
何弁か分かんないけど、なんかメッチャ訛った。
九州の方言っぽくなった。
「いや、なんでそんなに訛った⁇」
「分からん、けど 父親が九州出身で たまに方言で喋ってるところ 聞くから それでかな⁇
んー、でも たまによく分かんない方言で喋ってる。」
「いや、意味分かんない。」
"怖すぎでしょ……" と言う奈緒。
なんか、わかってもらえないかな……わかってもらえる気がするんだけどな……。
何故か、隣駅で結構な人が乗って来た。
普段、そんなに何もないのになー。
「奈緒、大丈夫⁇」
人が多すぎて、押し潰されそう⁇
「大丈夫大丈夫、後 3駅くらいだし。」
「彼女立たせて俺は座ってる、って周りの顰蹙を買わない⁇」
「買わない、私が座るよう言ったから。」
「……なら、いいけど。」
暫く様子を見ていた。
立ったまま、電車に揺られて居る奈緒を。
その両隣には男性。
揺れが酷いところでは、計らずも身体のどこかがどちらかとぶつかっていて。
「やっぱり、席 変わろうか。」
奈緒は首を横に振った。
奈緒の腰に手を回して、俺の膝の上に座らせた。
「はぁ⁇ちょっと、何してんの⁇」
「座ればいいんだよ、俺がそう言ってるんだから。」
「意味分かんない、ってか 恥ずかしいから辞めて。」
「んー、嫌。」
奈緒が勝手に立ち上がろうとしても立てないように腰に腕を回している。
目的地まであと一駅、ってところで大分 人が降りて 隣が空いたから 隣に座らせた。
「ほんと恥ずかしいから。」
「ごめんねー。」
携帯を弄りながら、答えた。
そうしたら、奈緒の肘が俺の横腹に入った。
「いった、何すんのさ。」
「携帯しないの。」
「もうちょっとで終わるから、ちょっと待って。」
やっていたゲームが終わって、携帯をポケットにしまう。
「お待たせしました、どうかした⁇」
横を向くと奈緒は俺から顔を背けた。
うーん、初デートだよね、今日。
違ったっけ⁇
付き合った日も出掛けてたけど、あれはノーカンだから(俺の中では) 今日が初デートの日のはず。
なのに、何で お互い機嫌が悪くなったりすんのかな。
俺は一応……少しは、楽しみにしてたんだけどな……。
まぁ、今更だし。
そんなこと考えても、どうにもならないし。
「ごめんね、奈緒。」
奈緒の手を握った。
……直ぐに払われちゃったけど。
目的駅に着いて、改札を出て。
「楽しくないなら、もう帰ろう⁇」
そう提案した。
目的地に着いて直ぐだけど、こんな悪い空気のまま 2人で遊ぶなんて嫌だ。
「楽しくないとか言ってない。」
なら、何でそんなに不貞腐れてんの⁇
「今日はもう携帯でゲームしないから。
そんなに嫌だった⁇」
首を縦に振った奈緒。
「そう、ごめん。許してくれる⁇」
「今後の行動による。」
「……そっか。
じゃあ、早く地上に出よう⁇
こんな所にいても仕方ないんだし。」
手を差し出したけど、奈緒はその手を取ってくれなかった。
……嫌か、まぁ いいや。
でも、ちょっとショックだなー。
手のやり場がないから、仕方なく ポケットの中にしまいこんだ。
「澪緒、女慣れしすぎ。」
俺の隣に来て、奈緒は俺の腕と腹の間に腕を入れた。
腕を組んでる状態。
「そうかな、でも 下に妹居るのに 女慣れしてないの、それはそれで嫌じゃない⁇」
「え、妹居るの⁇」
「うん、2人。」
「へぇ〜、何歳⁇」
「中3だから、15歳⁇」
「もう1人は⁇」
「……へ⁇」
「だって、2人居るんでしょ⁇」
「うん、2人とも15歳。」
「双子⁇」
「そうそう、双子。」
「似てるの⁇」
「似てない。
お父さん似とお母さん似だから、全然 顔が違う。」
碧生はお父さん似、吏夷はお母さん似だからな。
まぁ、2人とも整った顔 してるけど。
「澪緒は⁇誰似⁇」
「両方。
眼・鼻はお母さんで輪郭・毛の生え方はお父さん。
髪の色とか眼の色はお母さんかな。」
「すごい、混ざってる。」
「そうなんだよねー。
ってか、奈緒は⁇どっち似⁇
あと、1人っ子⁇」
「私は、どうだろう……どっち似かはなんて考えたこともなかったから……でも、お父さん似かな。」
「そうなんだ、女の子はお父さん似の方が顔 整ってるらしいね。」
「うわ、なんか口説いて来た。笑」
「いや、口説いてないよ⁇笑
彼女を口説いて、どうすんだよ。笑」
テキトーにぶらぶら歩いて商店街に入った。
「あ、ねぇ、何処行く⁇」
「あ、友達の誕生日プレゼント買いたいんだけどさ。」
2人揃って "あ" から話し出したことに気づいて、なんか面白くなって来ちゃって笑ってたら 奈緒に引かれた。
笑ってた理由を説明しても 俺の説明が下手だから 分かってもらえなかった。
哀しみ。
「何処で買うか、とか 決めてないの⁇
ってか、先に買っちゃうの⁇
荷物増えちゃうから、後で買う⁇」
「うーん、とりあえず色んなお店見て 考えて 最後に買うのでいい⁇」
「うん、いい。」
「なら、そうしよ。
……澪緒、どうかした⁇」
「アニメイトが近いな、と思って。」
「行きたいんだったっけ、行く⁇」
「え、いい⁇
単行本で読んでる漫画の発売日が今日で、メイトで買ったら 特典色紙が付いてくるんだよね。
本当に推してる漫画だからさ、今日 ここで買っちゃいたくて……」
凄い顔してる奈緒。
……オタク全開で話してしまった⁇
もしかして、引いてます⁇
ガチな方で。
「そんなに行きたかったなら、そう言えばいいのに。」
「ちょっと恥ずかしく思うこともあるから、ね。
オタクって あんまり語感が良くないし、……うん。」
他にもいろいろ思うところはあるんだよね。
まぁ、今持ち出してまで話すべき内容でもないから あえて今は話題にしないけど。
入ってすぐの新刊コーナーにお目当の漫画はあった。
直ぐに 手に取った。
他にも漫画見て、ラノベコーナーを見て。
気になってたラノベを見つけたから、試しに1巻買ってみることにした。
周りには 試しに3巻買う人が多いけど、俺はそんなに裕福じゃないから とりあえず 1巻だけ。
本とかを見てブラブラしてたら、奈緒に
「まだかかる⁇」
って聞かれた。
「あ、いや、別にもう買ってくる⁇」
俺は本に囲まれている空間が好きだけど、でも 店内に篭った熱気が何だか嫌だから そろそろ出たいかも。
「私、店の外で待ってる。」
そう言って出て行った。
待たせすぎた⁇
自分が好きなことしか頭になかったな。
休日だし、客が多くて レジが混んでいた。
店を出たのは 並び始めて10分くらいしてから。
「遅い。」
「ごめん。」
「もう次はないから。」
「えぇー……、残念。」
でも、漫画とかアニメ ゲームに興味ない人にとってみると 本当によく分からない空間なんだろうな。
いやはや、申し訳のないことをした。
「あ。」
そのあともブラブラしてると、映画館の前で奈緒は声をあげた。
「今公開中の映画さ、観たいのあるんだけど。」
「行きたい⁇」
「行きたい。」
「行こうか。」
そう言って、映画館に着いて 券売機に並んで。
奈緒が選んだのはディズニーピクサーの映画だった。
「あ、俺もこれ気になってた。」
「そう、なら 良かった。」
30分後くらいから始まるのは あまり良い席が残っていなかったから、3時間後の公演の方にした。
「俺、このシリーズ 好きなんだよね。」
「私も。一作目から 映画館で観てる。」
「俺も。今回で三作目か……時の流れを感じる。」
高校生用の券を2枚買って、映画館を出た。
「なら、時間忘れないようにしないとね。
アラーム30分前に設定しておくから。」
携帯を弄って、アラームを設定する。
「うん、ありがとう。」
ブラブラしていると かなり有名な市場のゲートが。
「え、錦市場がここから生えてたとか知らなかったんだけど……」
「私も。」
「行ってみる⁇」
「興味ある。」
「行こっか。」
観光客みたいな人がたくさんいて、そうでなくても狭い道がいっぱいいっぱいで中々前に進まない。
「あ、胡麻団子のお店だって。」
「胡麻が好きなんだったっけ⁇」
「そうです、だから……」
「いいよ、食べよう。」
「やったー!」
母親が胡麻好きで、それがうつっちゃって 俺も胡麻が好きなんだよね。
白ご飯には胡麻をかけて食べてる。
「俺、黒胡麻にしよー。」
「なら、私 金胡麻。」
黒胡麻の中は胡麻あんこ、金胡麻の中はチーズ。
どっちも美味しそうだから、迷うところだけど。
それぞれ買って、食べてた。
って言っても、串に刺さった胡麻団子二つなんて すぐに食べ終わっちゃう。
「一つずつ交換すれば良かった。」
奈緒がそう言って、初めて 気付いた。
そうじゃん、一つずつ交換すれば 黒胡麻も金胡麻も味わえたんじゃん。
バカだな、俺は。
「まぁ、また今度 来ようよ。
んで、その時にリベンジでいいじゃん。」
「そうだね。」
食べ終わって、お店を出て また人でいっぱいの市場。
「なーんか、喉乾いてきた。」
「俺も。」
「さっき、飲み物売ってるところあった。」
「うん、俺も見た。
でも、遡るの嫌〜〜。」
「それは分かる。」
「どうせ、また似たようなお店あるって〜、無かったら無かったで 商店街に戻ればいい話じゃん。
あそこの通りだったら、何でもあるじゃん。」
「確かに。」
そうこう言いながら歩いていると、市場から出ちゃった。
この道を引き返すのは面倒すぎるから、別ルートから商店街まで戻ることにした。
このあたりの道路は碁盤の目みたいになってるから、テキトーに歩いていたら 目的地にはつくし。
テキトーなお店で飲み物買って、飲んで。
一息ついた。
「なら、誕プレ探しに行く⁇」
「うん、何処がいいと思う⁇」
「妹の付き添いでよく連れて行かれるのは、Neo martかな。」
「何処⁇」
「んー、直ぐ近く。」
「連れてって。」
少し迷いながら、辿り着いて 中に入る。
男だけでは絶対には入れないなー、この店は。
男性店員も居るけどさ、それでも 女性が圧倒的に多い。
「いいもの見つかりそう。」
「時間まで、ゆっくり見ればいい。
まだ1時間半はあるから。」
「いや、そんなに長居しないよ。」
一通り見てから、悩み始めた奈緒。
「どんなのがいいだろ⁇」
「ポーチにモノ詰めるとか⁇
ちょうど見本みたいなのもあるし、参考にすればいいんじゃない⁇」
「そうしよ。
ポーチのサイズは⁇」
「そもそも形もたくさんあるよ⁇
ここのあたりにあるのは 2次元的な感じだけど 向こうの方にはもっと3次元的なのがあったし。」
「澪緒だったらどうする⁇」
「それは俺が貰うのか、あげるのか、どっち⁇」
「貰って嬉しいものをあげるでしょ⁇」
「うーん、見栄えとかも考えちゃうけど……金銭面 結構 考えちゃうからな……」
俺は実際のポーチ 数パターンを見比べて考えた。
「いや、いっそのこと この中身の見えるポーチはしない。」
「なんで⁇」
「俺、中身の見えるポーチとか持ってる人 あんまり好きじゃないんだよね。
自己顕示欲 ぶっ壊れてそう。
中身の見えるリュック背負ってる人とかさ、ちょっと気味が悪い。」
"なるほどね〜" って言いながら 奈緒は 近くの違う商品を見始めた。
「小さいポーチだと安いし、そういうのに もらって嬉しいものを詰めなよ。
大きいポーチの中身が安いお菓子とか 本末転倒じゃない⁇」
"確かにねー" と相槌を打ちながら 奈緒は 色々なものを見て考えている。
「あ、ここにある筆箱とか いいんじゃない⁇」
その透明ポーチとかが置かれている反対側には ペンポーチが並んでいた。
「しっかりしてるし、高そ。」
「いや、意外と安い。
500円しないくらい。」
「へぇ、なんか、金銭感覚狂ってきそう。」
「この中にシャーペンとか入れたらいいんじゃないの⁇
ってか、プレゼント包装頼むときにやってくれると思う。」
奈緒がペンポーチを色々吟味している最中、急に止まって 俺のことを凝視した。
「……⁇」
俺は首を傾げた。
奈緒は首を横に振った。
「いや、何かあるでしょ。何⁇」
「私よりも女子力高くない⁇」
「妹に付き合わされてるからねー。
欲しくもない女子力がついてしまっているのかもしれない。」
「うわっ、嫌味だ。」
「だって、俺 男だよ⁇」
「なら、もっと男らしい格好しろ。」
「え⁇この服 女っぽい⁇」
「組み合わせ方が綺麗なお姉さん。」
「だって、流行りとか知らないし……。
俺は流行りとかに振り回されたくないから、自分の好きな服を着ることにしてんのー。」
「それは少し分かるし、実践してるのには一目置けるかもしれない。」
「いぇーい。
……で、決まんないの⁇」
「うん。もうちょっと待って。」
一生懸命に相手のことを考えてプレゼントを選んでいる奈緒。
「奈緒の友達は幸せ者だ。」
多くある中から3つにまでは絞ったみたい。
その3つと睨めっこしながら、 "何で⁇" と聞き返す。
「こんなに自分のことを考えながら誕生日プレゼントを選んでくれる友達なんて そうそう居ないと思うから。」
「そうかな⁇」
「うん、きっと。」
"ちょっと違うところ見てる" と一言断ってから アクセサリーのコーナー⁇を見に行った。
確か、松坂は校則でピアス禁止だから 耳に穴 開けてないよな。
前に 穴閉じろ、って言われてから あんたりイジってないから 軟骨にあけたピアスはもうほとんど閉じてきてる。
昨日の夜、なんとなく 気分で ホールキーパー刺そうとしても なかなか刺さらなくて 血が出ちゃったくらいだし。
耳たぶは まだ開いたままだから、今日もピアスついてるんだけど。
でも、ここ ピアスばっかりだな。
ネックレスも少しあるみたいだけど、気に入るのがないし……。
まぁ、此処じゃなくても いいや。
実は 何か 奈緒にプレゼントできるようなものを探していて。
別に何かの記念とか、そういうのじゃないんだけど……。
付き合い始めた日、形はともあれ 奈緒には晩御飯を奢ってもらった、っていう風な感じになっているから 何か お返ししないと 性分上 スッキリしなくて。
でも、まぁ、何か アクセサリーを送って あわよくば お揃いかペアか そんなものがいいな、と思っている時点で 俺も大抵 この恋人関係に浮かれている。
よし、決めた。
此処じゃないところで探そう。
相手が気に入らなかったとしても、せめて俺が気に入るものを選びたいし。
奈緒のいるところに戻ると、ペンポーチは何にするか決まったみたい。
「中 何入れんの⁇」
「うわっ、ビックリした……。
急に話しかけないで。」
「え⁇」
「驚いた。」
「うん。」
そんなことくらい、反応を見れば分かる。
「急に現れて、急に話しかけないで。」
「どうしたら良かった⁇」
だって、肩トントンとかしても きっと驚くだろうから それなら 話しかけようがないじゃん。
「それは分かんない。
中身どうしよう。一緒に考えて。」
「考える。どんな子なの⁇
……まぁ、奈緒のその選択から大体は分かるけど。」
「そう⁇」
「ネタ系じゃないけど、そういう感じが好きなの⁇」
「そうみたい、全く理解できないから 考えるのも 一苦労なんだよ。」
「なるほどね〜、分かんないジャンルのことを考えるのは大変。」
付箋のコーナーを見て、その棚の下にある クリップのコーナーを見て。
「こういうのは⁇」
って目に付いた ぽい感じのものを見せる。
「あ、いいかも。」
"そう⁇" 肯定的な言葉が返ってくると 嬉しくなる。
文具コーナーを見ていて、
「このブロックみたいなシャーペンは⁇
……あ、でも予算的にどう⁇」
「2000円くらいだから、あと800円くらいイケる。」
思ってたよりも予算が高かった。
妹とかは いっつも1000円くらいで見積もってるから。
「それなら、まだいろいろ買えるじゃん。
文房具だけに縛られずにさ、違う何かにしたら⁇」
「違う何か、とは⁇」
「お菓子とか、バスセットとか。
ちょっと存在感のあるストラップとかさ。」
「あー……、文具に縛られて考えるのも大変だから そうしようかな。」
「あっちにバスコーナーあるし、レジ前にお菓子コーナーあるし。」
「バスコーナー、見に行こ。」
連れて行かれて、いろいろ見て。
「思ってたよりも安いから 逆に迷っちゃう。」
「それは分かる。
でも、箱とかに入ってるやつは高いしね。」
「そうなんだよね……、澪緒だったら どうする⁇」
「俺のこと 頼りすぎじゃない⁇笑笑」
そんなことを言いながらも、考えた。
「あ、今 思ったんだけどさ。」
「何。」
「さっきの透明ポーチあったじゃん、アレにバスセット入れるのは……どうかな、と思ったんだけど あえて要らないな。
忘れて。」
「そう。」
テキトーに返事されてから、1分くらい考えて 選んだのは ハンカチ一枚と 入浴剤 3つ。
「これはどうですか。」
「あり。」
「なら、良かった。」
それでも、腑に落ちていない といった顔を見せる奈緒。
「やっぱ、ストラップとかにしたら⁇
この辺り、いろいろ置いてあるでしょ。」
「そうしようかなー、バスセットにするのは甘えな気がする。」
「分かりみ。」
そう言って ストラップとか キーホルダーとかのコーナーを見る。
「なんかさ、このギョロ眼可愛い。」
「ギョロ眼、って言うの辞めて。
目が大きい、にして。」
「目が特徴的なこのマスコットが可愛いと思います。」
「そう、だなー……こんなに種類があると迷っちゃうな……」
急に時間が知りたくなって 携帯を見ると 映画まであと一時間と少しくらいになっていた。
「ねぇ、ご飯食べたいなら そろそろここ出て食べるところ探したほうがいいかも。」
「あ、マジで⁇もうそんな時間⁇
よし、決めた!ミミズクにする!」
「え⁇それ、ミミズクなん⁇」
「ミミズク……っぽいじゃん!」
「まぁ、そうね。」
奈緒はレジでお会計。
俺はレジ近くのお菓子コーナーを見ていた。
プレゼント包装待ちらしくて、奈緒が俺のところに来た。
「付き合ってくれてありがと。」
「いいえ⁇俺も考えるの楽しかったし、全然いい。」
しばらくしてから買ったプレゼントを受け取って 一時間ぶりくらいに外に出た。
「お腹空いた⁇」
「うーん、空いたけど……無理して食べるほどでもない。」
「俺もー、」
「あのさ、最近話題の抹茶ティラミス食べてみたい。」
「あー……、あそこ。行ってみる⁇
もしかすると、券配ってるかも。」
「そうなの⁇並ぶんじゃないの⁇」
「最近 この時間に来てください、ってカードが渡されるようになった。
でも、まだあるんじゃない⁇」
実際に行ってみると 10人くらいの人が並んでいた。
店の前に立っている店員さんに聞いてみると、17:00〜になるらしい。
それでもいい、と奈緒が言うから その時間のカードをもらった。
「今は何食べる⁇俺、小腹は空いたんだよねー、何か食べないと 映画中にお腹なりそう。」
「それは困るね。」
「金の鳥から、食べよっかな。」
「美味しいの⁇」
「美味しい、と俺は思う。
好きな味にできる、なんかソースみたいなの たくさんあるから。」
「へぇー。」
「んじゃ、俺 買うから 食べなよ。」
映画館の道を挟んだ前にあるお店で ダブルを買った。
映画の半券を見せると 増量してもらえた。
普通に嬉しい。
「あ、奈緒 レモン汁と塩 かけて。」
いっつも この組み合わせ。
脂っこいの、苦手だから アッサリしそうなモノをかけてる。
「はいよー。」
そう言ってかけるけど、何故か 袋の中だけじゃなくて 俺の手にもかけられた。
「俺の手は食べ物じゃないよ……⁇」
「かけたかったんじゃないし。」
そう言いながら 塩をかけると、固まった場所に大量に塩が出た。
「味にムラがありすぎでしょ。」
袋の上を閉じて、振った。
少しでも味が均一になるように。
「何処で食べんの⁇」
「んー、立ち疲れたし座りたい。」
「確かに。」
少し考える。
何処かいい場所ないかなー⁇
「映画館のシアター前の椅子でいいじゃん。」
「迷惑でしょ。」
「……迷惑かー。
なら、川辺で食べる⁇
あそこなら、まぁ 地べただけど座れる。」
「あ、行ってみたい。」
「なら 行こっか。」
ここから歩いて5分ほどのところに 大きめの川があって、いつの季節もたくさんの人の憩いの場になってる。
空いてそうな場所まで歩いて、そこで腰を下ろした。
鳥から 美味しい。
「今日、思ってたよりも全然楽しい。」
「そうなん⁇良かったじゃん。」
「うん、澪緒と だからだよ、きっと。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。」
「私ね、正直 1ヶ月保つと思わなかった。」
1ヶ月は保つだろ。
俺、早くても1ヶ月半は毎回付き合ってるな。
「澪緒と付き合って良かった、って 心から思ってる。」
「ありがとう。」
凄く照れ臭くて 顔を背けた。
赤くなってると思う、そんなの見られたくない。
……恥ずかしいし、
「澪緒は⁇」
「はい⁇」
「澪緒はどう思ってる⁇」
「俺……は、……解らない。
奈緒と一緒に居るの、苦じゃない。
それだけは言える。」
「そう。」
返事が素っ気ないな……。
誤解されちゃったかな⁇
"苦じゃない" って言いかたは少し不味かった⁇
「俺ね、人付き合いが苦手だから ずっと誰かと一緒に居る、とか もう息苦しくって 仕方なくて。
でも、奈緒居ると何故か 心が落ち着く。
……不思議。本当に 不思議。」
これで思い、伝わる⁇