私と恋をはじめませんか
「気にしなくてもいいよ。アイツ、多分照れてるだけだと思うし」

「照れてる?」

「うん、そー。小春ちゃんが可愛いから、照れてんだよきっと」

「私が言うのもなんだけど、篠田も素直じゃないからね」

「……確かに。素直じゃない芽衣が言えたもんじゃない」

「自分で言うのはいいけど、有村に言われるとちょっとムカつくわ」

ふたりの反応が思っていたのと違っていて、私はますます困惑してしまう。

「どうしたの? 小春ちゃん」

思わず黙ってしまった私に、崎坂さんが心配そうな声を掛けてくる。

「いや、ちょっとびっくりしちゃって。その、私、篠田さんには嫌われているとばかり思ってたから」

「そこは大丈夫。アイツ不愛想でも、好き嫌いで仕事するようなヤツじゃないし。な?」

「うん。そこは同期として断言できる」

「だからさ、小春ちゃん」

「はい」

「ま、めげずに話しかけてやってよ。しばらくしたらアイツも心開くと思うしさ。俺の隣の誰かさんみたいに」

「え?」

「芽衣もさぁ、素直じゃないから。結構大変だったんだよ、ここまでくるの」

その言葉に、崎坂さんが軽く肩をすくめた。

同期のふたりがこう言ってるんだから、きっと篠田さんはいい人なんだろうな。

それがわかっただけでも、来週からの仕事も頑張れそうな気がしてきた。

「ありがとうございます」

思わず頭を下げると、ふたりはにっこりと笑ってくれた。






「あー、食った食った」

お腹をポンポンと叩く有村さんを見て、崎坂さんとふたりで笑いあう。

しっかり食べた焼鳥屋さんの帰り道。

電車の駅を聞くと、崎坂さんと私は一駅しか変わらないことが発覚。

同じ市に住んでいるとわかって、なんだかとても近い存在に感じてきてしまうのだから、不思議。

「じゃあ、崎坂さんの地元って、宮脇慎吾さんの地元ですよね?」

駅名を聞いたときから思っていたこと。

小さい頃から大ファンの俳優、宮脇慎吾さんが私の住む市出身ということは昔から有名な話で、同じ市に住んでいると、だいたいあのあたりに実家がある、とかそういう話は流れてくる。

< 11 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop