私と恋をはじめませんか
「それでは、失礼致します」

静かに篠田さんが受話器を置き、大きく息を吐きだした。

「篠田、どうだった?」

畑中室長が一番に声を掛けると、篠田さんは軽くうなずいた。

「大丈夫です。終わりました」

「そうか、よかった」

「さっすが、篠ちゃん。すっかりベテランの域ね」

「ちょ、止めてくださいよ。痛いです」

背中をバンバン叩く律子さんに苦笑いを向けながらも、本気では怒っていない様子の篠田さん。

「篠田さん、すみません」

「いや、別に。高原さんが謝ることじゃないです」

「でも……」

「これからもっと、経験を増やせば、スムーズに対応することも出来ますから」

……え? 今、篠田さん……。

「……笑ってくれた?」

「高原さん?」

きょとん、とした顔で私を見る篠田さんに、

「なんでもありません」

と、手をぶんぶん横に振る。

篠田さんは首を傾げながら、さっきの話の報告のために室長とミーティングルームへ出かけて行った。

「初めて、笑いかけてもらったかも……」

一瞬、篠田さんの目が優しくなって、ふっと、口角が上がった気がした。

いつもの不愛想な表情とは違う、とっても優しい表情。

「高原ちゃん、大丈夫?」

ぼんやりと篠田さんのことを考えていたら、目の前でヒラヒラ、律子さんの手が振られていた。

「さっきの電話で疲れたでしょ? ちょっと休憩してきたら?」

「いえ、大丈夫です。頑張ります」

「そう?」

「はいっ」

元気そうな私の声に、律子さんがホッとした表情を向けた。

篠田さんが笑ってくれた。

それが、とてもうれしい。

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