私と恋をはじめませんか
よし、もっと仕事頑張ろう。そして、篠田さんともっと仲良くなって、笑顔をたくさん見せてもらおう。

私は勝手にそう決意して、仕事に励むのだった。


***


六月になり、梅雨の気怠い季節がやってきた。

篠田さんの笑顔を見てから一か月。

近頃なんだか、私はおかしい。

出社して、篠田さんの姿を見ると、すごくうれしくなる。

どうにかして声が聴きたくて、どうでもいい世間話を振ってしまう。

……まあ、二言三言で終わっちゃって、話は全然続かないけれど。

そして、篠田さんにいつも注目しているからか、彼の知っている部分が増えてきた。

例えば。

朝は苦手で、ギリギリまで寝ていること。

特に、飲んだ翌日は中々起きれなくて、そういうときは大抵寝ぐせが直せず髪の毛が大爆発していること。

結構甘いものが好きで、机の左上の引き出しには、お菓子が常備されていること。

「……もうね、寝ぐせがピョコン、となってる姿が愛おしく感じちゃうんです」

「篠田が愛おしいとか、小春ちゃん重症じゃね?」

「そうですかねぇ……?」

「……って、なーんで有村までここにいるのよっ! 今日は小春ちゃんと女子会だって言ったじゃんっ!」

「だって、俺も一緒に行きたかったんだもん」

「だもん、って……。全然可愛くない」

崎坂さんが大きなため息をついても、ニコニコ笑顔の有村さん。

篠田さんへの膨らむ想いをどうにか吐き出したくて、秘密を守ってくれそうな崎坂さんに相談したのが今日の昼休みのこと。

二つ返事で崎坂さんは私との食事を了承してくれて、さっそく終業後にご飯を食べに行くことになった。

『いらっしゃいませー。三名様ですか?』

『え? ふたりですけど……?』

思わぬ店員さんの言葉に、思わず崎坂さんと顔を見合わせた瞬間。

『三人でお願いしまーす』

後ろから、有村さんののんきな声が聞こえてきて、私は固まり、崎坂さんはこめかみを押さえる。

どうやら後をつけてきていた有村さんに対して、強く拒否をすることもできず、結局三人でご飯を食べることになったのだった。




「まあ、小春ちゃんの気持ちもなんとなくわかる気がするけどねぇ」

パスタをくるくると巻きながら、崎坂さんが言う。

「ほら、篠田って結構年上のお姉さんに可愛がられるじゃない?」






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