私と恋をはじめませんか
「ありがとう」

そうやって崎坂さんが笑ったのと、電話を終えた有村さんが戻ってきたのはほぼ同時で。

「あれ、崎坂もいたんだ……え、高原さん?」

「し、篠田さんっ!?」

有村さんの後ろから現れたのは、渦中の人物である篠田さん。

思わず口をあんぐりと開けてしまった私と、大きな瞳を増々大きくしている崎坂さんを見て、有村さんはさわやかに笑うだけ。

「帰りにさ、篠田も誘っておいたんだ。話したいこともあったし」

言いながら、さっきまで座ってた崎坂さんの隣に腰を掛ける。

そうなると、篠田さんは私の横に座るわけで。

ただ横にいるっていうだけなのに、篠田さんのいる左側だけが、なんだか熱くなってくる。

「今まで仕事だったんですか?」

「まあ、頼まれていた資料作りとかしていたので」

店員さんから受け取ったおしぼりで手を拭きながら、いつものように淡々と答える篠田さん。

「それよりも、なんで高原さんがここに?」

単純に、不思議だったんだろう。自分の同期であるふたりと一緒に、後輩の私が座っていることが。

「小春ちゃんはね、俺の友達の妹なんだよ。だから時々話聞いたりしてるんだ。ね?」

「はい」

私が頷くと、篠田さんは何やら難しそうな顔をした。

どうしたんだろうと思い声を掛けようとしたけれど、私より早く有村さんの「あ!」という声がテーブルに響く。

「わかった。お前、小春ちゃんが『篠田さんにいじめられて困ってるんです』とか言ってないか心配なんだろ?」

「何言ってるんですか、有村さんっ! 篠田さん、私そんなこと一切言ってないですからね」

慌てふためく私を横目でチラッと見た篠田さんは、小さくため息をついた。

「誰が後輩いじめるかよ。俺が心配になったのは、高原さんが仕事で困ったことを部内で相談出来ないのかと思っただけだし」

改めて私の方へ顔を向けた篠田さんと目が合う。

「大丈夫です。仕事の相談はちゃんと篠田さんにしてますから」

フルフルと首を横に振ると、篠田さんがホッとした表情を見せてくれた。

「それなら大丈夫です」

少しだけ口角が上がった優しい顔に、胸がときめく。
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