私と恋をはじめませんか
思わずキュン、としてしまいしばらくトリップしていた私を現実に戻したのは、店員さんの元気な「ビールお持ちしました」の声だった。

「じゃあ、改めて」

有村さんの音頭に、四人でグラスを合わせる。

一口飲み終えた後、崎坂さんが不思議そうな声を上げた。

「そういえばさ、なんで篠田、小春ちゃんに敬語なの?」

「別にいいだろ。気にすることか?」

「気にするというか……なんか小春ちゃんも近寄りがたく感じちゃわないかなあって思って」

「気になりますか?」

篠田さんから話を振られて、思わず目を丸くしてしまう。

気になるといったら気になる……というか、なんだか距離を感じてしまうのは事実だけど。

そんなことを言ったら、私が篠田さんのことを気にしているっていうのがバレちゃわないかな。

そう思った私は首を横に振った。

「本人が気にならないっていうんだからいいだろ」

気にする様子もなく、篠田さんは淡々と目の前の小鉢に手を伸ばす。

これ以上は聞かないでくれと言われているようで、「そういえばさ」と有村さんが別の話題を切り出した。




一通りの料理を食べ終え、だいぶお腹も満たされた私は、お手洗いに行こうと席を立つ。

崎坂さんも一緒に行くと言って立ち上がったので、私たちは連れ立って化粧室へと向かった。

「小春ちゃん、篠田の前だと恋する乙女の顔になってるね」

ふたりの待つ個室へと帰る途中、クスッと笑う崎坂さんの声に、私は思わず頬を押さえてしまう。

「え? 私そんなにわかりやすい顔してますか?」

「小春ちゃんの気持ち知っているからかも知れないけど、私にはそう見えるよ。篠田を見つめる目がね、恋しちゃってますって全面的に主張してる感じ」

「そんなにはっきり言われちゃうと、どんな顔していればいいかわからなくなっちゃいますよ……」

「いいんじゃない。それで」

「え?」

「篠田って、仕事は出来るけど恋愛方面ってなんだか鈍感そうだし。少しくらい『あなたのこと気になってます』アピールしないと気づいてもらえないんじゃないのかなあ」
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