私と恋をはじめませんか
「うん、篠田ってヤツ。ちょっと不愛想だから冷たく感じるかもしれないけど、実際はすっげーいいヤツだから。色々質問あったらアイツ頼っても大丈夫だよ」

「篠田さん、ですね。覚えておきます」

篠田さん、篠田さん、と心の中でつぶやく。

有村さんがそう言うなら、きっといい人なんだろう。

勝手に頼りにさせてもらおうと、心の中で私が決めたところで、会社にたどり着いた。

「じゃあ、小春ちゃん。頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」






二階にある営業部へ階段で向かう有村さんと受付前で別れ、私はエレベータへ乗り込む。

お客様相談室があるのは五階。

五階への到着を告げるポン、という音が響き、エレベーターから降りて右へ進んだ角に、私が今日からお世話になるお客様相談室があった。

ドアの前で大きく深呼吸。

「おはようございます!」

元気よく扉を開けると、中にいたひとりと目が合った。

「おはよう、高原さん」

メガネの奥の優しい瞳と目が合い、心の中に安心感が広がる。

昨日、辞令を受けたときに紹介された、私の上司。

畑中室長は、昨日と変わらない優しい笑顔で迎えてくれた。

「おはようございます。室長」

「高原さん、一番乗りだね。僕も早めに来ておいてよかったよ」

室長の言葉どおり、今この部屋にいるのは私と室長のみだ。

「多分十分もすれば全員集合すると思うから。朝礼の時の紹介で、一言お願いするから準備しておいてね」

「はい、わかりました」

みんなの前で挨拶かあ。緊張するなあ。

ドキドキしながら、室長に促された椅子に座っていると、続々とほかの社員さんが出勤してきた。

「お。今日からの新人さん?」

「よろしくねー」

私の挨拶に、みなさんニコニコと返してくれる。

よかった、みんな優しそうで。

ここでなら、上手くやっていけるかもしれない。

不安が少し和らいだその時、隣に人の気配を感じた。

目線を上に向けると、私の隣の席に、ひとりの男性がカバンを置いているところだった。
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