私と恋をはじめませんか
「ううん。今日は帰るね」

「そっか。じゃあ、春田さん、駅まで小春お願いできますか?」

きょんちゃんの問いかけに春田さんは迷いなくうなずく。

「え、いいですよ。私のことは気にしないでください」

「僕も駅に向かうから、ついでだよ」

「そうだよ。小春、甘えなよ」

きょんちゃんの勢いに押されるように、私は春田さんと駅へ向かって歩き出した。

「なんか、すみません」

急に申し訳なくなって、小さな声で謝ると、春田さんが首を傾げた。

「何が? 駅まで送っていくこと? それとも、うわの空で合コン参加してたこと?」

心の中、読まれてる?

びっくりして俯いていた顔を上げると、苦笑いの春田さんと目が合った。

「な、なんでそのこと……」

「実はね、小春ちゃんが今日参加する経緯は、きょんちゃんから聞いてたんだ。『同期の子が、好きな人に彼女がいるかも知れないって思ってて、その恋を諦めようとしてる』って」

驚きすぎて声が出ない私をよそに、春田さんは話を続ける。

「きょんちゃんは、君に新しい恋をしてもらいたいんじゃなくて、今の恋を諦めることを止めたかったみたいだよ。それで、僕に今日の合コンに参加してほしいって頼みにきたんだ。僕と、僕の彼女にね」

「春田さん、彼女いるんですか?」

「そ。小春ちゃんには悪いけど、僕は彼女のこと大好きでね。申し訳ないけど、彼女以外の子は見えてないんだ」
「それなのに、なぜ?」

「自分では自覚がないんだけど、どうやら僕が悩みを聞くと、結構解決する確率が高いらしくて」

「それはわかるかも。春田さん、聞き上手だし、アドバイスとかも上手そうだもん」

うんうん、と私がうなずくと、春田さんは照れくさそうな笑顔を向けた。

「それで、小春ちゃんの事情を聞いた僕の彼女がね、僕が話を聞いて上手くいくなら行ってあげてって言うからさ。それで、今日来たんだよ」

「そうだったんですか……」

改めて、きょんちゃんの優しさに涙がこぼれそうになる。

それよりもうれしいのは、一度も会ったことのない私の為に、春田さんとその彼女さんが、協力しようとしてくれたことだ。

「で、小春ちゃん、どうだった? 彼のことは、諦められそう?」

私は首を横に振る。
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