私と恋をはじめませんか
「私、比べてました。私の好きな先輩、春田さんとはまったく逆のタイプで。なんか何考えてるのか分からないし、いつも淡々として無表情だし。会話とかも話を広げようとしないから、二往復くらいで会話が終わっちゃうんです。こっちは必死で話広げようとしてるのに」

「そうなんだ」

「そうなんです。でも、仕事で困っているときに自然に助けてくれたり、時々ふと、無表情ながらも優しい顔になることとかもあるんです。そういう姿にドキドキして、キュンとしちゃって……」

「なるほどね。ギャップ萌えってヤツかな?」

春田さんの言葉に、小さく笑う。

「そうかも知れません。そうやって、少しずつ色んな姿を見ていくたびにどんどん好きが増えちゃってて。だから、彼女がいるかも知れないって思っても諦められなくて」

「でも、彼女がいるって、誰もその先輩から聞いたことはないんだよね?」

「はい」

「じゃあ、まだ小春ちゃんはまだまだ頑張れると思うけどな」

「……え?」

「怖くても自分の気持ち、伝えてみなよ。せっかく生まれた好きって気持ち、相手に伝えないのはもったいない」

春田さんの言葉に、頭を殴られたような衝撃が起きた。

春田さんの言う通りだ。

せっかくの好きの気持ちを、篠田さんに伝えないまま消滅させるのなんて、もったいない。

例え、ホテルで一緒にいた女性が篠田さんの恋人だったとしても、私が気持ちを伝えてはいけないなんてことはないはずだ。

「実はね、僕も彼女が新入社員のときに教育係をしていたんだ」

「それって、今の私と同じ状況ですか?」

「そう。一生懸命な彼女と毎日仕事をしているうちに、惹かれていくにはそんなに時間はかからなかったな。お互い惹かれ合っているのもなんとなくわかってた。でも、気まずくなるのが嫌で気持ちを伝えようとしなかった」

「どうして気持ちを伝えることができたんですか?」

「半年くらいたった頃かなぁ。強力なライバルが現れてね、絶対に彼女を逃すまいと思って、告白したんだ。その時は必死だったよ。でも、そのおかげで僕は、幸せな毎日を送ってる。行内には秘密の恋だけど、それも結構楽しいよ?」

茶目っ気たっぷりの春田さんの笑顔に、私も自然と笑みがこぼれてくる。

「私、頑張ってみてもいいのかな」

「当たり前だよ。誰にだって恋をする権利はあるんだから」
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