私と恋をはじめませんか
「お、おはようございます」

「……おはようございます」

私の挨拶に、ぼそぼそっと返事を返すちょっと猫背で細身の男性は、チラリと私を見た後、何も言わずに横の椅子に腰を掛けた。

……不愛想な人。

この人の隣の席で仕事するの、ちょっと嫌だなあ。

心の中で、名前もまだ知らない人に悪態をついてしまう。

ふう、と小さなため息がこぼれたとき、始業のチャイムが室内に響いた。

みんなが立ち上がって室長の席の近くへ寄っていくので、私も同じように立ち上がると、室長に手招きされた。

言われるがまま、室長の隣に立つ。

「おはようございます。皆さんも知っているとおり、今日から新しい仲間が配属されることになりました」

一斉にみんなの視線が私に集中するのを感じて、思わずうつむいてしまう。

「では、高原さん。一言どうぞ」

「は、はい」

一歩前に出て、大きく息を吸う。

「おはようございます。本日からこちらにお世話になります、高原小春です。初めてのことばかりでご迷惑をかけることも多いかと思いますが、頑張りますのでよろしくお願いします」

ペコリ、と頭を下げると、大きな拍手が鳴り響いた。

「では、今日も一日頑張りましょう」

室長の締めの言葉で朝礼が終わり、それぞれが席へと戻っていく。

「高原さん、ちょっと待ってて。今日からのこと、少し説明するから」

「はい」

私も戻ろうとしたけれど、室長に呼び止められてしまった。

「篠田~。ちょっといいか?」

「はい」

そうやって振り向いたのは、さっきの不愛想な猫背さん。

……あれ? 室長、猫背さんのこと、『篠田』って言わなかったっけ?

篠田、っていえば、有村さんの言ってた同期の人も篠田さんって言ってたような。

「今日から君の教育係になる、篠田くん。今年で三年目だったよな?」

室長の言葉に、篠田さんは無言で首を縦に振る。

これで確定した。この篠田さんが、有村さんが言ってた同期の篠田さんだ。

「篠田篤(しのだ あつし)です。よろしくお願いします」

「高原小春です。よろしくお願いします……」
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