私と恋をはじめませんか
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それは、お客様相談室に配属されて一週間が過ぎた頃のこと。
「お電話ありがとうございます。コトブキ製菓、お客様相談室、担当高原でございます」
「すみません、ひとつお伺いしたいのですが」
いつものように電話に出ると、少し年配の女性の声が聞こえてきた。
パソコンの対応用システムを立ち上げて、まずは電話の着信時刻を打ち込む。
「あの、梅味のザラメがのったおせんべい、最近お店で見かけないのだけど、どうしちゃったのかしら?」
「梅味のザラメのおせんべい、ですね」
そう言いながら、頭の中で商品を思い出す。
定番商品としてザラメのおせんべいはいつもあるけど、梅味は季節限定の味付けだったはず。
パソコンのデータベースに商品名を打ち込むと、限定時期は一月から三月と書かれていた。
「お客様。そちらの商品は一月から三月の間の期間限定の商品となっておりますので、現在は販売を中止しております」
「あら、そうだったの。それは残念だわ」
「申し訳ございません。私も大好きな商品ですので、毎年楽しみにしているんです」
「あら、あなたも?」
「はい」
私の言葉に気をよくしたのか、明らかに女性のテンションが上がり、声の調子も明るくなってくる。
「本当に美味しいわよねぇ」
「ええ。あの梅スパイスの配分がとてもいい感じですよね」
「うんうん。出来れば常に購入できるとうれしいわ。伝えておいてくれるかしら」
「はい、かしこまりました」
「よろしくね」
「お電話ありがとうございました。失礼いたします」
女性が電話を切るのを待って、私も受話器を下ろす。
「高原さん」
私が電話を終えるのを待っていたかのように、篠田さんが話しかけてくる。
「篠田さん、お客様が商品をほめてくれました。うれしいですね」
「そうですね」
ニコニコと語りかけたのに、相変わらず篠田さんは表情を崩さない。
一瞬合った目をすぐに逸らして、ボソボソと話し出す。
「でも、少しだけ知り合いの人と話しているような感じになっていましたよ。あくまでお客様と会社を代表して話しているんですから、気をつけてください」
それは、お客様相談室に配属されて一週間が過ぎた頃のこと。
「お電話ありがとうございます。コトブキ製菓、お客様相談室、担当高原でございます」
「すみません、ひとつお伺いしたいのですが」
いつものように電話に出ると、少し年配の女性の声が聞こえてきた。
パソコンの対応用システムを立ち上げて、まずは電話の着信時刻を打ち込む。
「あの、梅味のザラメがのったおせんべい、最近お店で見かけないのだけど、どうしちゃったのかしら?」
「梅味のザラメのおせんべい、ですね」
そう言いながら、頭の中で商品を思い出す。
定番商品としてザラメのおせんべいはいつもあるけど、梅味は季節限定の味付けだったはず。
パソコンのデータベースに商品名を打ち込むと、限定時期は一月から三月と書かれていた。
「お客様。そちらの商品は一月から三月の間の期間限定の商品となっておりますので、現在は販売を中止しております」
「あら、そうだったの。それは残念だわ」
「申し訳ございません。私も大好きな商品ですので、毎年楽しみにしているんです」
「あら、あなたも?」
「はい」
私の言葉に気をよくしたのか、明らかに女性のテンションが上がり、声の調子も明るくなってくる。
「本当に美味しいわよねぇ」
「ええ。あの梅スパイスの配分がとてもいい感じですよね」
「うんうん。出来れば常に購入できるとうれしいわ。伝えておいてくれるかしら」
「はい、かしこまりました」
「よろしくね」
「お電話ありがとうございました。失礼いたします」
女性が電話を切るのを待って、私も受話器を下ろす。
「高原さん」
私が電話を終えるのを待っていたかのように、篠田さんが話しかけてくる。
「篠田さん、お客様が商品をほめてくれました。うれしいですね」
「そうですね」
ニコニコと語りかけたのに、相変わらず篠田さんは表情を崩さない。
一瞬合った目をすぐに逸らして、ボソボソと話し出す。
「でも、少しだけ知り合いの人と話しているような感じになっていましたよ。あくまでお客様と会社を代表して話しているんですから、気をつけてください」