私と恋をはじめませんか
電話の相手は、意外なお相手。

「どうしたんですか?」

『突然で申し訳ないんだけど、今日仕事終わってから何か用事あったりする?』

「いえ、特には」

『じゃあ、メシでも行かない? 小春ちゃんの歓迎会も兼ねてさ』

「いいんですか?」

『ん、いいよ。大丈夫?』

「はい、もちろん」

まだまだ仕事に慣れることが精いっぱいで、仕事がある日に友達と約束する気になれない私。

今日だって、有村さんから誘われなかったらそのまま家に帰るだけだったもの。

『じゃ、店とか決めたらメールするから』

「わかりました。よろしくお願いします」

やったぁ。有村さんとご飯だ。

篠田さんとのやり取りで落ち込んでいた気持ちが浮上する。

よし、美味しい食事を目指して、今日も一日頑張るぞ!

プルルルル……。

心の中でガッツポーズを決めたその時、電話のベルが鳴り響いた。

今からは仕事モード。浮かれた気持ちは隠すこと。

一呼吸、気持ちを整えて受話器を取る。

「お電話ありがとうございます。コトブキ製菓お客様相談室、担当高原でございます」

こうして私は、終業時間まで頑張って仕事をこなした。






そして、待ちに待った終業を告げるチャイム。

「お先に失礼します。お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

隣の篠田さんに声を掛けて、席を立つ。

一応篠田さんを見て声を掛けるけど、やっぱり彼は視線を合わせてくれない。

律子さんとは結構目を合わせて会話しているところも見かけるのになあ。

やっぱり私のこと、あんまり好きじゃないのかな……。

そう考えていると少し気分が落ち込んじゃう。

でも今からは、有村さんとのお食事会。

こんな暗い表情は見せられないよ。

化粧室で軽く化粧直しをして、会社を出る。
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