ぷりけつヒーロー 尻は地球を救う 第2話
 転送装置で凜太郎が飛ばされた先はどこかの公園だった。
「ここは……公園?」
辺りを見渡す凜太郎。公園内にはフットサル場やスケート場まである。割りと広い公園のようだ。そこに晋助から通信が入る。
「聞こえるか?ワシじゃ。晋助じゃ」
「はい。聞こえます。ここはどこですか?」
「渋谷の宮下公園じゃ。怪人は現在渋谷の109前で暴れておるようじゃ。人通りが激しかったこともあり、既に被害は甚大じんだいじゃ。こちらの調べでは今なら周りに人もおらん。恐らくみんな逃にげ出したのじゃろう。変身するなら今しかない。早速変身するのじゃ!凜太郎くん!!」
「所長、一つだけいいですか?」
「なんじゃ」
「やっぱりあの変な動きもつけなきゃダメ、ですか?」
「なに言っとるんじゃ!ダメに決まっとるじゃろうが!!質問はそれだけかの?では、健闘けんとうを祈いのっとるからの!」
「ちょっと待――」
一方的に通信を切られてしまう凜太郎。口から深い溜め息が漏れる。
「やるしかない、よね……」
再度周りを見渡すと、凜太郎は覚悟かくごを決めた。
「ぷりけつぷりけつぷ~りぷり!」
軽快けいかいにお尻を左右に振りながら、合言葉を叫ぶ凜太郎。身体全体からだぜんたいが白く輝かがやきだし、一気に怪人と同じくらいの大きさまで巨大化する。服装もヒーローコスチュームへと次第に変化する。全身ピンク色で口元が隠されており、お尻の部分だけが切り取られて丸出しの状態となっている。ヘソの辺りにはひらがなの"ぷ"が書かれており、丸で囲かこまれている。そして、頭部とうぶだけがなぜかお尻の形をした、お世辞せじにもカッコいいとは言えないコスチュームだ。むしろダサい。
「なんとかなんないのかなぁ~……このコスチューム。なんか違うんだよなぁ。なんかもっと、こう……ヒーローっぽいのがいいんだけどなぁ。これじゃあまるで変態だよ」
本音がぼやきとなって口から溜め息と共に漏れる。そこに再び研究所から通信が入る。今度は照子からだ。
「凜太郎!なにボーッと突っ立ってんのよ!!この国を怪人にめちゃくちゃにされていいの!?」
「照子さん。やっぱり俺……このコスチューム嫌です!!」
「今更なに言ってんのよ!そんなことより早く怪人をぶっ倒しなさい!!それに、私は嫌いじゃないわよ。そのコスチューム」
「照子さん、それマジで言ってます?」
「あら、可愛いじゃない。ぷりぷりのお尻が丸見えになってるとことか最高に可愛いわよ」
「そりゃどうも」
今度は凜太郎から一方的に通信を切った。いつまでもぼやいている時間はなかった。凜太郎がこうしている間にも町の被害は広がっていた。そこらかしこから人々の悲鳴ひめいや避難ひなんを促うながすアナウンスが聞こえてくる。町中が混乱こんらんと恐怖きょうふに包まれていた。
「あぁー!!もう!!こうなったらヤケクソだ!!」
109近くで暴れている怪人に近づいていく凜太郎。逃げている人を誤あやまって踏ふみ潰してしまわないよう慎重しんちょうに歩を進める。





「首都っていうからもっと期待してたんだけどなぁ。これじゃあ脆もろすぎてつまんないよぉ」
そこに航空自衛隊こうくうじえいたいの戦闘機せんとうき5機が怪人の前に現れる。
「なんだろう、あれ。ちっちゃくて可愛い~!おもちゃみた~い!!」
戦闘機5機が一斉いっせいに怪人に向けてミサイルを発射はっしゃし、見事命中する。しかし、傷きずひとつついてない。
「いきなりなにすんのよ~!ビックリしちゃったでしょ!こんな悪いことする子にはオシオキしちゃうんだから!!」
戦闘機に向かっていく怪人。戦闘機はバルカン砲ほうなどで応戦しているが、まるで効きいてない。
「今度はこっちからいくよ~!ぱ~んち!!」
怪人の巨大な拳こぶしが戦闘機に轟音ごうおんと共に迫せまる。避よけきれず、一気に戦闘機3機がやられてしまう。粉々こなごなに消し飛ぶ3機。残り2機は勝ち目がないと思ったのか、戦線離脱せんせんりだつしようとしている。それに気づく怪人。
「今更逃いまさらにげるとかなしだよ~。ていうか、逃がさないけどね。えいっ!!」
怪人は戦闘機2機をまるで蚊かを潰すように手の平ひらで潰すと、満足気な笑えみを浮かべた。
「は~い!私のかち~!!いくらなんでも弱すぎだよぉ。もっと強いのいないの~?」
「そこまでだ!!」
そこにようやく凜太郎が現れる。凜太郎の声に気付き、向き直る怪人。
「怪人め!これ以上好き勝手にはさせないぞ!!」
「あっ!君だね。ボインちゃんを倒したっていうヒーローくんっていうのは。たしか名前は……ぷりけつヒーロー!」
「だったらなんだ!」
「あのさ、一つ聞いていい?」
「な、なんだ!」
「その名前とコスチューム。もしかして、自分でカッコいいとか思ってんの?」
「ふざけんな!!思ってるわけないだろ!!こっちだっていい迷惑めいわくしてんだ!!」
怪人の質問に即答そくとうで答える凜太郎。ここにきて不満が再燃さいねんする。
「そ、そりゃそうだよね。私だったらそんな名前をつけられた挙句あげく、そんなコスチュームを着せられるくらいなら死んだ方がマシだもん。なんか、その……ごめんね?」
凜太郎にかなり気を遣つかっている怪人。二人の間に変な空気が流れる。
「ま、まぁアレよ。よく見れば可愛く見えなくもないけど……」
「どこが!?」
「えっ!?あの、その……ほら!頭の部分がお尻の形してるとことか?」
「もういいよ……」
「……ごめんね?」
二人の間に流れる空気が気まずい空気へと変わり、重い沈黙が流れる。
「君、私を倒しにきたんでしょ?だったらさ、気を取り直して戦お?ね?」
「うん……」
目を瞑つぶり、深呼吸をして、なんとか気持ちを切り替えようとしている二人。



「あ、現れたな!!ぷりけつヒーロー!私の名前は"デカシリ"。君なんて私のお尻で潰しちゃうんだから!」
「こ、これ以上お前の好きにはさせないぞ!覚悟しろ!!」
改めて戦闘態勢にに入る二人。お互い距離をとって睨み合っている。
「なんかやりずらいなぁ……この子。調子狂くるっちゃうよ」
「さっきは俺のコスチュームをバカにしたけど、お前だってなんなんだ!?その服は!」
「地球のオスはこういうのが好きなんでしょ?私勉強したんだから」
得意げな顔を浮かべる怪人デカシリ。
「まぁ否定ひていはしないけど……」
凜太郎の方にお尻を突き出し、左右に振る怪人デカシリ。
「今からこのお尻でじっくり、たっぷりいじめてあげるからね。覚悟してね」
実際に見るとモニター越ごしで見た時よりもお尻がかなりデカく感じる。よく見ると太腿ふとももやお尻にあたる部分に赤い血のようなものがついている。恐らく何人かそのお尻で潰したのだろう。凜太郎は思わず生唾なまつばを飲んだ。
「なにジロジロ見てるの?そんなに私のお尻が気になる?エッチ!」
悪戯いたずらっぽく笑う怪人デカシリ。
「み、見てない!!」
自身の心を見透みすかされたような気がした凜太郎は恥ずかしさのあまり視線を逸そらした。
「隙すきアリ!必殺!!ヒップアタック!!」
凜太郎めがけて強烈なヒップアタックを放はなつ怪人デカシリ。大きなお尻が凜太郎に迫る。見かけによらず動きはかなり素早すばやい。しかし、目の端はしでそれを捉えた凜太郎は間一髪かんいっぱつのところでかわす。派手に尻もちをつく怪人デカシリ。轟音が辺りに響き渡り、大地が揺ゆれる。地面にお尻の形で大きなクレーターができる。
「あ、危なかった……。あんなのまともにくらったらひとたまりもないな」
心臓の鼓動こどうが一気に早くなる。凜太郎の額に汗が滲む。
「いったぁ~い!!もう!なんで避よけちゃうのよ!!思いっきりお尻打っちゃったじゃない!!バカ!!」
かなり痛かったのか。怪人デカシリはちょっと涙目になっている。
「いや、だって……避よけなきゃ危なかったし」
頬を膨らませて凜太郎を睨みつけながら、ゆっくり立ち上がる怪人デカシリ。
「もう本気で怒ったんだから!!絶対に私のお尻でグリグリして、原型げんけいも残らないくらいぺちゃんこにしてやる!!」
「やれるもんならやってみろ!!」

――とは言ったものの、このまま攻せめられっぱなしじゃこっちに勝ち目なんてない。こっちからも攻めないと。でも、ぷりけつビームは一度撃ったら次撃てるようになるまでに15分はかかる。ここぞ、という時以外は撃つべきじゃない。となると、残る選択肢せんたくしはただ1つ!アレしかない!!
「なにボーッとしてるの!?来ないならこっちからいくよ!」
怪人デカシリが凜太郎に向かってくる。

――やるしか……ない!!
勝負に出た凜太郎。怪人デカシリに向かっていく。
「目には目を!ヒップアタックにはヒップアタックだ!!くらえぇ!必殺!!ヒップアタアァァァック!!」
「避よけきれ――」
避よけきれず、凜太郎渾身のヒップアタックの直撃ちょくげきをくらい、吹き飛ぶ怪人デカシリ。凜太郎はなんとかギリギリ着地に成功し、素早くぷりけつビームを撃つ体勢に入る。

――撃つなら今しかない!!
怪人デカシリの方にお尻を突き出し、後ろを振り向きながら万が一にも外はずさないよう慎重に狙いを定める。

――頼む!当たってくれ!!
「これでとどめだ!必殺!ぷりけつビィィィーム!!」
凜太郎のお尻からピンク色に光り輝くビームが怪人デカシリに向けて放たれる。怪人デカシリはなんとか体勢を整ととのえようとしていた。気づいた頃にはもうぷりけつビームが間近まぢかにまで迫っていた。
「キャアァァァー!!」
凜太郎の目にはぷりけつビームが怪人デカシリに直撃したように見えていた。爆音ばくおんと共に辺りに煙けむりが立ち込める。
「やったか!?」
煙が徐々じょじょに晴れていく。目を凝らし、警戒けいかいしながらも状況を確認する凜太郎。
煙が完全に晴れたその先には左手で紫色に輝く巨大な盾を構かまえる怪人デカシリの姿があった。ぷりけつビームが当たったにも関わらず、傷ひとつついてない。
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