クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「律己は姉によく似てます。俺にも似てるでしょう?」

「はい、すごく」

「でも律己の半分は、会ったこともない男の血でできてる」


はっとした。

彼はこちらを見ずに、まっすぐ階段の下を見つめている。


「ふとしたとき、律己に、姉でも自分でもない、まったく知らない人間の面影を見ることがあります。それはきっと、あいつの父親のものなんだろうと思います」


彼の両手が、祈るように組み合わされた。


「姉を妊娠させ、結婚という形で責任を取らなかった男のものなんだろうと」

「有馬さん…」

「今はいいんです。でも律己が大きくなって、たとえば手に負えないほど反抗するようになって、俺がどうしようもなく苛立ったりしたら」


それまで淡々としていた彼の声に、感情が見え隠れし始める。

やるせなさに襲われ、切羽詰まったような、苦しげな感情。


「俺は律己の血の半分を理由に、自分を正当化して全部を投げ出して、もう一度あいつを捨てるかもしれない」


手に顔を埋めるように、彼がうつむいた。


「あいつが一番傷つく方法で、あいつに流れている血について教えてやるかもしれない。そんな予感が頭をかすめます。俺はそういう奴なんで」


言葉が一瞬途切れ。


「父親にはなれないと思った」


吐き出すような声が、そう言った。

悲鳴にも似た、泣き声にも似た、その声を聞いた瞬間、隣の身体を抱きしめていた。震える肩に腕を回して、必死に力をこめた。

爪を切ったりとか持ち物に名前を書いたりとか、そんな表面的な苦戦の下で。

もっとずっと深いところで、彼は父親になることに怯えていた。律己くんをそばに置いて、親子のような関係になっていくことに、恐怖していたのだ。

しながらも、徐々に徐々に、愛情をかけることに慣れていってくれた。

律己くんのために。
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