クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「有馬さん」

「いっそ墓まで持っていく覚悟で隠し通そうかとも考えます。でも律己は姉の忘れ形見で、その事実も、俺にとっては大事なんです」

「わかります」

「姉の子であることを、律己にも知っていてほしい。でも、でも…」


堂々巡りです、と腕の中で力ない声がする。

わかります、有馬さんが苦しんでいるの、感じます。お姉さんと律己くんへの愛情ゆえに、悩んでいるのがわかります。

有馬さんが律己くんを通して肯定したかったのは、お姉さんなんですね。

そして、それができたらきっと、おばあちゃんも救われる。

だけどそんなの、有馬さんがひとりで背負わされることじゃないのに。でもほかに誰もいなくて、抱えきれずこうして震えている。


「有馬さん…」


抱きしめた身体から、もう返事はなく。

彼は両手に顔を埋め、嗚咽にも似た、かすれた吐息を漏らしていた。


「律己、迎えに行かないと…」


少しした頃、ふと彼がつぶやいて顔を上げた。

その顔は涙に濡れているわけでもなく、やっぱり男の人なんだな、と思わせる冷静さを、もうまとっていた。

私は腕を緩め、それでも心配で、彼の顔を覗き込む。有馬さんは、ちょっと照れくさそうな顔で私を睨み。

「先生も、こんなとこで俺に構ってないで帰ってくださいよ」とつっけんどんに言った。

かちんと来た。


「そんな言い方ないでしょう。さっき、関係なくないって言ってくれたくせに」

「言った記憶はないですね」


冷たく言って立ち上がる。逃がすまいと私も腰を上げ、睨み合った。


「なんなんです? 私、なにかしました?」

「先生こそなんなんですか。律己を気にかけてくれるのはありがたいですけど、俺をからかうの、やめてもらえます?」

「私がいつからかいました!」

「だって、相手がいるんじゃないですか!」
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