クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
うつらうつらと揺れ始めた律己くんを、お父さんが肘で小突いた。


「律己、ちゃんと起きてろ」

「眠くなっちゃったかな。お昼寝しよっか」


私は慌てて立ち上がり、棚に満載の備品の中から、お昼寝用のタオルケットを出して部屋の隅に敷いた。

律己くんは今にもくっつきそうな目を懸命に開き、もぞもぞと自力でそこまで移動して、ことんと眠りに落ちた。お父さんはそれを、見ているだけ。


「あの、有馬さん」


たまらず正面の位置に戻り、姿勢を正して声をかけた。

お茶を飲んでいた彼が、不思議そうに私を見る。


「立ち入ったことをお聞きしますが、律己くんのお母さんて…」

「母親は、死にました」


淡々とした声だった。

私は愕然とした。

奥様が…亡くなっている。

そこへ園長が、FAX用紙を手に戻ってきた。


「お待たせしました、ようやく登録が終わったそうです。律己くんを連れて帰ってあげてください」


本部を無理やり動かした達成感で、顔を輝かせている。

用紙にはこちらから送付した、律己くんのお父さんの個人情報と写真が、承認印つきで印刷されていた。有馬篤史(あつし)という名前が、はっきり見えた。

私は立ち上がり、律己くんの荷物を抱えた。リュックと、バスタオルや上履きの入った手提げ袋。


「家までお持ちします。律己くんを起こすのもかわいそうですし」

「え」

「金曜日なので、荷物も多いですから。お父さんは律己くんをお願いします」


ためらっていたお父さんは、こくんとうなずいて、眠っている律己くんを抱き上げた。予想よりは慣れた仕草で、片腕で支えて頭を自分にもたせてやる。

園長に見送られながら園を後にした。

外はもう真っ暗で、月が煌々と照っている。
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