クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
違う。子供を育てる人は、必ずどこかで自分の極限を見る。それでも絶対に、子供に対して言ってはいけないこと、してはいけないことがあって、それだけはと思いとどまり、その繰り返し。

子供の目に映る、生身の自分を見る。

子供の中に、目をそむけたくなるほど自分に似たなにかを見る。

子供が大きくなれば、それを子供自身から突き付けられさえする。

きれいごとだけで子供を育てられるのなら、関係の悪くなる親子なんていないだろう。親は子を通して、新たな自分と出会う。

弱くて醜い自分と。

私にはなにができるんだろう。




世間でいうところのお盆休みも、保育園は開ける。

律己くんは聞いていた通り、その期間は登園してきて、翌週の終わり頃、「来週は一週間休ませます」と迎えに来た有馬さんが言った。


「お休み取れたんですね、ご旅行ですか?」

「旅行はまあ、二泊なんですけど。あとの日はゆっくりふたりで過ごそうかなとか。気が向けばあちこち行ったり」

「楽しそう。ねっ」


部屋の奥からリュックを出してきた律己くんに話しかけると、なんの話かすぐにわかったらしく、嬉しそうに顔をほころばせる。


「覚えたダンス、忘れちゃわないように時々練習してね」

「ダンス?」

「運動会の練習がもう、始まってるんですよ」


有馬さんが目を見開き、「運動会」と繰り返した。

そうだ、この人、一度も来たことないんだった。おそらくそんな年中行事があることすら知らなかったに違いない。


「けっこう盛大にやるんですよ、線路の向こうの小学校の校庭を借りて」

「へえー」


相槌を打ってはいるものの、興味なさそうだ。これはあれだ。たぶん、彼自身が学校行事とかにまったく関心を示さなかったタイプだ。
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