クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「園に登録されているのは、線路の向こうのマンションですよね?」

「あっちは親の家で。今日はこのまま、俺の家に連れて帰ります」


俺の家って。あなたの家なら、律己くんの家でしょう。


「どちらにお住まいなんですか?」

「ここです、この上」

「え?」


お父さんが指さしているのは、園の真上。

この保育園は、マンションの一階のテナントスペースに入っている。二階より上は住居で、そこから園に通っている子も多い。

まさか律己くんのお父さんが、ここに住んでいたとは。




「お邪魔します…」

「あ、荷物そこ置いといてください」


お父さんは律己くんを抱っこしたまま、寝室らしき部屋に入っていった。

私は玄関にリュックと手提げ袋を置き、あまり露骨にならないようあちこちを観察した。男物の靴が散らばった玄関、殺風景なリビング、がらんとした続き部屋。

やっぱり。ここは子供の暮らす家じゃない。

絵本やおもちゃといった子供の持ち物が何一つ見えないし、洗面所に踏み台もない。綺麗にしまってあるとしても不自然すぎる。

律己くんを寝かせたらしく、お父さんが廊下に戻ってきた。私は手提げ袋を指して彼に説明した。


「この中は洗濯物です。洗って、同じ内容を月曜日にまた持ってきてください」

「わかりました。何時に行ってもいいんですか?」

「え?」


手提げ袋の中をしげしげと覗き、「上履きも洗うんですか」と質問なのか独り言なのかわからないことをつぶやいている。


「…登園は、8:45までにお願いしています。50分から朝の会なので」

「そんな早いんですか」

「お勤めしていたら、その時間から預けられないと困りますよね?」
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