クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
有馬さんは「よかった」と微笑んで、近くのベンチに腰を下ろし、隣のスペースを指さした。


「足、つらいでしょ」

「あ、じゃあ、失礼します」


どうして律己くんのそばに座らないんだろう、と思いつつ、彼の隣に腰を下ろす。

律己くんが、顔が入ってしまいそうな大きなコーンと格闘する横顔を、少し離れたところから見守る形になった。


「来週会うことになったんですよ」


足元に寄ってきた鳩に気を取られていた私は、なんの話かとっさに理解できず、ちょっと間を置いてから、彼を振り返った。


「…安斉さんですか」

「はい。それで先生に、頼み事というか、お願いがあって」

「私に?」


有馬さんは両肘を腿に乗せ、軽い前傾の姿勢で律己くんを見つめている。それは話しながらも、また深く考え込んでいるように見えた。


「こっちに来てもらう予定です。といっても部屋にはまだ入ってほしくないので、マンションの下のラウンジスペースとか。そういう場所がお互い気が楽でいいかなと。まあ、向こうの気を楽にしてやる義理はないんですが」


じっと前方に視線をやったまま、彼は続けた。
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