クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「時間的に、夜しか都合が合わなくて。でもそうすると、律己の面倒を見られる人がいなくなってしまうんです」

「あ」


そうか、おばあちゃんの助けは借りられないから。

私は得心し、頷いた。


「私、見てます。ごはん持って伺います」

「すみません」

「お風呂も入れますし、歯磨きさせて寝かしつけるところまでやりますから」

「すごい張り切ってますね?」


有馬さんがこちらを見て目をぱちぱちさせるほど、私は熱意に溢れていたらしい。小さくなって「いえ、あの」と弁解した。


「嬉しいんです、できることがあるのが」


運動会用のジャージの腿の上で、手をもじもじと動かす私を、身を屈めた姿勢のまま、有馬さんがじっと見つめてくる。


「じゃあ、もうひとつお願いしてもいいですか」

「はい、なんでしょう」

「律己が寝たら、降りてきてもらえませんか」


驚いて彼のほうを見た。目が合った彼の視線は、静かだった。


「一緒に話を聞いてほしいんです」

「でも…」

「向こうの話の内容によっては、俺は、冷静でいられる自信がないので」


組み合わせた手に、視線を注ぐみたいに、有馬さんがうつむく。


「そばにいてほしいんです」


踏み込みすぎなんじゃないだろうか、とか。園に知れたらなにかしら問題扱いされるかもしれない、とか。

とてもつまらないことが一瞬頭をよぎって、すぐに消えていった。
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